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コラム

遺産分割における不動産の評価

植木博路

投稿日

2019.12.06

投稿者

植木 博路

カテゴリー

その他の民事・家事事件

不動産関連

遺言書作成・相続・財産管理

遺産分割調停や遺産分割審判において,遺産の中に不動産が含まれているケースは非常に多いのですが,その評価方法をめぐって相続人間で争いとなることが少なくありません。相続人間で,「固定資産税評価額による」などと合意ができれば,それでよいのです。また,各相続人が主張する金額(例えば,各相続人が提出した不動産査定書に記載された金額)の中間額で合意ができるというようなケースもあります。
しかし,合意ができない場合が大変です。
その場合,裁判所が鑑定人を選任し,鑑定人によって不動産の評価を行うということになるのですが,鑑定を希望する当事者は鑑定費用をあらかじめ納付しなければなりません。鑑定費用は数十万円~百万円を超えることもあります。なお,鑑定費用は,最終的には,清算されます(各当事者が法定相続分で負担することになります)。
家事事件手続法には,参与員の規定があります。同法第40条です。参与員とは,家庭裁判所の諮問機関であり,不動産鑑定士が選ばれることもあります。
もちろん,参与員が不動産の評価につき意見を述べることは可能です。
では,家庭裁判所が,参与員の意見に基づいて,不動産の評価を決め,遺産分割審判をなすことはあるのでしょうか。

この点に関し,名古屋高決平8・7・29(家庭裁判月報48巻12号52頁)は以下のとおり判断しました。

「記録によれば,原審判における不動産の評価は,参与員の意見に基づいてなされたものと解される。しかして,この方法は,簡易に専門家の意見を聴取することができ,格別の費用も要しない点において大きな利点があるが,反面,前提となる資料が限定されたり,その意見内容に対する第三者の検証が容易ではなかったりするなどの制約を免れない場合があるものと考えられる。また,不動産が遺産中の相当部分を占めている場合には,その評価の如何によって,各相続人の取得分の内容に重大な影響があるから,参与員の意見内容を終局審判の資料とすることができる場合としては,相続人全員の同意がある場合,右意見内容の合理性が明らかで,それを終局審判の資料とする相当性が認められる場合や鑑定費用の予納や負担をめぐって当事者間に紛争が生じ,鑑定の実施が極めて困難な場合で,次善の方法ではあるが,参与員の意見によることが相当である場合などが考えられる。
これを本件についてみるに,記録及び審理の全趣旨によれば,この参与員の意見について相続人全員の同意があるものとは認められないし,当該参与員の意見内容自身も,簡易なものであって,その判断内容の合理性を検証することが容易ではないといわなければならない。また,右意見によれば,不動産の遺産中に占める割合は約49%に上り,かつ,本件では当事者も多く,利害も複雑に格み合っているから,本件では,右参与員の意見を終局審判の資料とするのは相当ではないというべきである。なお,当審における審理の全趣旨によれば,不動産の評価については鑑定を要するとの抗告人らの主張に対し,相手方らは,右評価のために鑑定をすること自体に反対するものではないと認められる。したがって,本件においては,不動産の評価は原審での鑑定によってこれを行うのが相当である」。

この決定から考えると,裁判所が参与員の意見に基づいて,不動産の評価を決め,遺産分割審判をなすことはないとは言えないものの,例外的と考えた方がよいと思います。不動産の評価方法について当事者間に対立ある以上は,鑑定を実施するというのが原則となるでしょう。
弁護士 植木 博路