トップへ戻る

弁護士法人 ALAW&GOODLOOP | 福岡・北九州・長崎の企業法務、法律顧問契約、法律相談

コラム

(相続法改正)配偶者短期居住権と配偶者居住権

投稿日

2018.12.21

投稿者

松本敬介

カテゴリー

その他の民事・家事事件

遺言書作成・相続・財産管理

今回は、相続法改正に伴い、新設された配偶者短期居住権と配偶者居住権についてお話します。

 

被相続人が亡くなり相続が発生すると、被相続人と一緒に住んでいた相続人がこの家に住めるのか、問題になります。

 

この点、現行法のもとにおいても、判例(最判平成8年12月17日)で、

共同相続人の1人が相続開始前から、被相続人の許諾を得て遺産である建物において被相続人と同居してきた場合には、被相続人と同居の相続人との間において、被相続人が死亡し相続が開始した後も、遺産分割により建物の所有関係が最終的に確定するまでの間は、同居の相続人に無償で使用させる旨の合意が推認されるとして、相続人の居住権を保護しています。

 

つまり、亡くなった被相続人と一緒に住んでいれば、相続開始から遺産分割終了時までは、無償で住めるということです。

ただし、被相続人が一緒に住むことを拒否していた場合は、これにあたりません。

 

さて、改正相続法では、配偶者短期居住権が新設されました。

配偶者短期居住権とは、配偶者が、被相続人が所有していた建物を相続開始の時に無償で居住していた場合、次の期間、無償で居住することができる権利をいいます新法1037条)。

⑴ 居住建物について、配偶者を含む共同相続人間で遺産分割をする場合

①遺産の分割により居住建物の帰属が確定した日、又は②相続開始の時から6か月を経過した日のいずれか遅い日までの期間

⑵ ⑴以外の場合、居住建物取得者は、いつでも配偶者短期居住権の申入れをすることができるが、この申入れの日から、6か月を経過した日までの期間

 

上でご紹介したとおり、現行法のもとでも同居していた相続人の短期居住権は保護されていましたが、「被相続人の許諾」が要件になっていない点で、一歩進んだ規定になっています。なお、短期居住権の定めは「配偶者」が対象になっていますので、他の相続人については従来どおり判例理論で保護されることになるかと思います。

 

ただし、新法によっても配偶者が相続人の欠格事由(民法891条)、廃除により相続権を失ったときは、配偶者短期居住権は認められません。また後述する配偶者居住権が認められる場合も、配偶者短期居住権は認められません。

 

さらに新法では、配偶者居住権が新設されました。

配偶者居住権は、その居住用建物の全部につき全部無償で使用収益する権利のことをいいます。

これは、被相続人の配偶者が、被相続人が所有していた建物に、相続開始時に居住していた場合、

①遺産分割で配偶者居住権を取得するとされたとき、

②配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき、

に認められます(新法1028条)。

 

さらに、遺産分割の審判を受けた家庭裁判所の審判によっても、

③共同相続人間で配偶者居住権の合意があるとき

④以外の場合で、生存配偶者が配偶者居住権の取得を希望する旨を申し出た場合において、居住建物の所有者の受ける不利益の程度を考慮してもなお配偶者の生活を維持するために、特に必要があると認めるとき

に配偶者居住権が認められます(新法1029条)。

 

配偶者居住権は、生存配偶者の終身の間存続することを基本としますが、遺産分割協議や遺言に別の定めがあるとき、家庭裁判所が遺産分割の審判で特別の定めをした場合には、その定めによるものとされます(新法1030条)。

 

居住建物に住み続けるという点では、その所有権を取得することになるのが一般です。しかし、居住建物の評価額が高くなる場合が多いので、遺産分割のときに、居住建物の所有権を取得してしまうと、その他預貯金等は相続できないケースがあります。その場合、住む所はあっても生活資金が不足する事態に陥るという問題に直面します。

そこで、居住建物に無償で居住する権利を独立して遺産分割の対象とすることで、配偶者は従来から住んでいた家に住み続けながら、生活資金を確保することが可能となります。

 

以上