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コラム

おじいちゃん、おばあちゃんが遺産分割で息子、娘に大迷惑をかける時代の到来

投稿日

2020.01.17

投稿者

永留 克記

カテゴリー

遺言書作成・相続・財産管理

国税庁の発表によると,最近相続税の不申告事例が目立つそうである。
 平成25年度の税制改正後、平成27年1月1日以降に発生する遺産相続について新しい相続税の基礎控除が適用されて、基礎控除額が改正前に比べて40%ほど下がったことが背景にあるように思われる。
 改正前であれば,うちは,遺産は実家の家・土地と銀行預金だけで相続税申告なんかしないでも多くの場合済んだ。
 しかしながら,改正後は基礎控除額が下がったために,思いもかけず,相続税課税対象額が基礎控除額を超えてしまうことがある。
 相続人の中には,それに気づかずに,相続税の申告をしないままに申告期間を経過してしまって,税務署に相続税の不申告を指摘される事例が多くなったものであろう。
 おじいちゃん、おばあちゃんといずれも嫁に行った娘二人について、一昨年、昨年と立て続けにおばあちゃん、おじいちゃんの順序で亡くなった事例を想定して検討してみる(現在は令和2年、改正後の基礎控除が適用される。)。
 改正前は、亡くなった被相続人一人につき5000万円に、一人1000万円に法定相続人数をかけた額を加えた額の基礎控除額があった。
 これに対し、改正後は、亡くなった被相続人一人につき3000万円に、一人600万円に法定相続人数をかけた額を加えた額の基礎控除額しかない。
 上記事例から、一昨年平成30年おばあちゃんが亡くなった時(一次相続)は、基礎控除額は合計4800万円、昨年令和元年におじいちゃんが亡くなった時(二次相続)は、基礎控除額は合計4200万円に減少する。
 亡くなったおばあちゃんは所帯持ちが良く、しっかり者で、銀行の普通預金だけでなく、有利な投資信託などでも運用していて、おばあちゃんが亡くなったときは、おばあちゃん名義で相当高額の金融資産が残された。
 おばあちゃんが亡くなった一次相続では、おじいちゃんや娘二人は、ひとまず、わかりやすく特に考えもせずに,法定相続分で機械的に遺産を分けてしまった。おじいちゃんは配偶者夫だから2分の1、娘たちは4分の1ずつ。
 結果として、おじいちゃんは,おばあちゃんの残した金融資産の2分の1を取得して、おじいちゃん自身の従来の銀行預金に、おばあちゃんの遺産である金融資産が加わってさらにおじいちゃんは高額の金融資産を保有することになってしまった。
 娘二人もおじいちゃんが亡くなって二次相続になった時のことを考えなかったわけではない。
 娘二人は、おじいちゃんに対し、相続税対策のためにも,おじいちゃんの孫,つまり娘2人のそれぞれの息子,娘に対し,おじいちゃんのろくに利息も生じない多額の銀行預金の中から生前贈与をしてくれと頼んだ。
 しかしながら、おじいちゃんは、西郷隆盛の「子孫に美田を残さず」の言葉どおり、孫に金を渡したらろくなことはないと考えて、孫には一切金は渡さず,貯め込むばかり。
 いまから考えると,おばあちゃん,おじいちゃんの元気なときに,一度,一次相続と二次相続全体をみすえて,2人の財産を計算して相続税額を通算してみて,どのくらいになるか計算してみるべきだった。いわゆる,これがシミュレーションである。
 仮に,おじいちゃんが先に亡くなる場合を考えてみる。
 おじいちゃんは堅実一途で節約家,金融資産といえば,虫めがねで見てもわからないくらいの利息しかない銀行預金ばかり。それでも退職金や長年の年金を貯めに貯めて,預金の元金額は相当高額となっている。
さらに,昔おじいちゃんが買った自宅の家とその敷地の不動産が値上がりして,遺産としての評価は上昇している。
 したがって,おじいちゃんが先に亡くなる場合,おじいちゃんの銀行預金に,価格が上昇したおじいちゃん名義の不動産の額が加わって,金融資産だけのおばあちゃんが亡くなる場合に比べて,相続税の課税対象が相当大きくなることは避けられない。
 おじいちゃんが先に亡くなる一次相続の場合,相続税額を抑えるために,残された妻おばあちゃんの相続税額の配偶者軽減特例をフルに活用する必要,メリットが出てくる。
 これに対し,おばあちゃんが先に亡くなる一次相続の場合を考えてみよう。
 おばあちゃんがいくらしっかり者で,おばあちゃん名義の金融資産が多額になるとしても,当時の基礎控除額が4800万円あれば,課税対象額は,相続税の控除限度額以内か又は控除額を超えてもわずかな額で済み,申告なしで済むか,又は納税するとしても相続税もたいしたことはなかったようである。
 そうだとすると,おじいちゃんの相続税額の配偶者軽減特例を利用するためにおじいちゃんの取得額を無理に法定相続分2分の1にしなくても相続税の額を心配しなくても良かったかもしれない。
 将来の二次相続では,配偶者の税額軽減特例は使えないし,基礎控除額も4200万円に減ることを考慮すると,一次相続のときに,将来の相続税の課税対象となるおじいちゃんの財産額を抑えるために,おばあちゃんの金融資産を,多少おじいちゃんに少なく,娘2人に少々多く配分する方法もあった。いまから言っても,いまでは後の祭り。
 また,今回のように,あまり考えずに,法定相続分で分配したとしても,おじいちゃんを説得して,おじいちゃんの多額の金融資産の中から金を出させてその金を一時払い養老保険の保険料に充てさせることを提案することも考えられた。
 これが「生命保険を利用した相続税対策」である。
 相続人の1人が被相続人を被保険者とする生命保険契約の保険金受取人として受け取る死亡保険金は民法上遺産ではないが,相続税法上は「みなし相続財産」とされて,相続税の課税計算対象となる(相続税法3条)。
 それでも,「みなし相続財産」とされる死亡保険金の一定金額(500万円×法定相続人の数)は非課税とされる(相続税法12条①五,六)。相続税における生命保険控除である。
 例えば,おじいちゃんが契約者となって,自分自身を被保険者,相続人である娘2人を保険金受取人とする生命保険契約を締結し,おじいちゃんの金融資産の中から金を出して,その金を保険料として,生命保険会社に払い込む形が考えられる。
 そうすれば,500万円×2=1000万円の生命保険控除が受けられて,節税
効果が期待できる。
 そして,節税になるだけでなく,おじいちゃんが亡くなる二次相続のとき,相続税の課税対象額がたとえ,4200万円の基礎控除額を超えて,相続税を納付しなければならなくなったときでも,娘2人が受け取る死亡保険金が相続税の納付資金になる(相続税納付資金対策)。
 おじいちゃんとしては,孫に生前贈与をするのは嫌でも,孫に金を渡す代わりに,娘2人に保険金を受け取らせて,それを相続税の納付資金に充てさせることが出来れば,生きた金の使い方になると考えてくれたのではないか。
 高齢者が「子どもたちには迷惑だけはかけたくない」とつぶやきながら,相続税対策の本を本屋で立ち読みしているテレビコマーシャルを見たことがある。
 これと全く逆に,高齢者が自分で使いもせずにただ貯め込むばかりで多額の金融資産を残して,娘2人に,相続税の申告やら,わずかならぬ相続税の納付の心配をさせるのは,相続人である娘2人にとっては大迷惑。
 いまや,多少おおげさな言い方をすれば,基礎控除額低下のため相続税不申告続出でおじいちゃん、おばあちゃんが息子、娘に大迷惑をかける時代が到来しているといえる。
 こんな時代には、自分の遺産は、自宅とその敷地と銀行預金くらいで基礎控除の限度内だから子どもたちには迷惑をかけないと簡単に考えるのは禁物である。
 とくに、私の裁判官時代の経験では、遺産の金額が少ないからといって、遺産分割を巡る紛争やトラブルがなくて済むということにはならない。
 九州の某裁判所に勤務しているとき、銀行預金わずかで、自宅とその敷地だけが遺産で当然基礎控除の限度内の事案で、兄と弟の間で遺産分割調停となり、亡くなった母親と同居していた弟が代償金を支払えず、住居にしていた実家の土地・建物を売却して、兄に金を分配せざるを得なくなった事案がある。
 相続対策は、税理士さんが主役かもしれないが、遺産がそれほどでなくても、また、一次相続、二次相続のいわゆる相次相続に限らず、紛争に発展しそうな事案は弁護士にも相談して欲しい。
 税理士さんは税金の計算は得意かもしないが、現実に遺産を巡って紛争になる修羅場はほとんど経験がないからである。
 私は、事業承継や遺産相続では、弁護士と税理士がコラボして、ことに当たる必要がいよいよ出てきた時代にあると考えている。
 そこで、私は、専団連の企業法務・会計研究会に参加させてもらい、自分の専門ではない税金問題につき勉強したことを話題として取り上げて発表させてもらって税理士、不動産鑑定士そのた士業の方々のご意見を伺っている。
 早い段階でも将来紛争が予想される場合では、弁護士にもご相談下さい。
 税理士さんと協力して相続税対策に当たりたいと思っています(私の所属事務所の電話番号は093-967-1652)。