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コラム

相続の「家なき子」って一体何ですか?

投稿日

2018.04.23

投稿者

永留 克記

カテゴリー

遺言書作成・相続・財産管理

「家なき子」って、アニメ世界名作劇場「家なき子レミ」のこと?

それとも、主人公のあの名子役安達祐実ちゃんの決めぜりふ「同情するなら金をくれ」のテレビドラマ「家なき子」のこと?

ここでは相続税制における「家なき子」のことです。

あのテレビドラマの中もう一つ記憶に残るせりふ「起きて半畳、寝て一畳」

人は必要以上の富貴を望むべきでなく、満足することが大切という教え。

私には、主人公の女の子が人生、狭くて粗末な住居など、どんなに厳しい環境でも自分は生き抜いていけるという強い意志、覚悟を感じさせる言葉。

ところが、それと真逆の、人もうらやむ広大な敷地にある大きな家を親から受け継ぐ人にとって、実はその広大な敷地と豪邸が心配の種。

持てる人にはそれなりの苦労があるもの。これが相続税の支払い。

相続税制で家の土地を相続する場合、その評価額を8割も下げて相続税を下げる特例あり。相続税負担から家を売らざるを得ない事態を避けるというのがその趣旨。これが「小規模宅地等の特例」といわれるものです。

平成25年度税制改正では、「小規模宅地等の特例」のうち「特定居住用宅地等に係る特例」の適用対象面積を同改正まで240㎡だったものが330㎡までの部分に拡充されました。

同改正の前まで、一棟の二世帯住宅で、その住宅内部で互いに行き来が出来ない構造で、例えば親夫婦と息子の妻子が壁を境に別々に居住しているような場合、その息子は親夫婦の同居親族に該当しないとされていました(特例適用のためには、お姑さんと顔も合わせたくないお嫁さんも玄関くらいは共通にせざるを得ない。)。

それで完全分離型二世代住宅では、その親夫婦と同居の親族が他にいないときは、特例適用はないとされていましたが、同改正で二世帯住宅の構造上が撤廃されて、特例適用がしやすくなり二世帯住宅の建設を促したのではと推察されます(若夫婦も夫の両親と別の玄関でも特例適用可能)。

平成30年度税制改正よりも前の「特定居住用宅地等に係る特例」の相続する人の要件は次のとおりです。

  •  被相続人(亡くなった人のこと)の配偶者(その妻又は夫)
  •  同居していた親族
  •  別居していた親族(持ち家に住んでいないことが条件)

 

相続人の中に、「① 被相続人の配偶者」や「② 同居していた親族」がいない場合に限り、「③ 別居していた親族」に持ち家に住んでいないことを条件に特例の適用が認められます。

この「③ 別居していた親族」は、文字どおり持ち家を持たず、借家住まいをしている人をさすことから俗に「家なき子」と呼ばれています。

もともと、親と同居していた息子などが会社命令による転勤などの事情からやむを得ず親と別居せざるを得なくなった後に親について相続が開始したような場合の救済規定です。

ところが、平成25年度税制改正で相続税の基礎控除の見直しで相続税課税が強化されたこともあってか相続税対策推進に拍車がかかり、賃貸アパート建設バブルに加えて、「小規模宅地等の特例」を利用した相続税対策、節税対策が盛んとなり、2015年分の亡くなった人が住んでいた自宅の土地の相続で特例適用を求める相続税申告件数は6万7000件を超え、申告件数全体の50.6%を占めるに至っています(日経新聞の国税庁に対する情報公開請求に対する開示結果)。

そこで、平成30年4月の税制改正において、特に「家なき子」について特例適用の厳格化が図られることになりました。

平成30年度税制改正については、日経新聞2018年(平成30年)4月7日号の「マネー&インベストメント」に詳しい。

結局、新しい税制改正によって、作為的に「家なき子」になる節税対策はほぼ使えなくなると思われます。

節税効果が大きな関係者は、親と同居することを考えた方が良い、しかも家族は別、本人だけが親と同居など中途半端な形では「税務調査」で「同居」と認められない可能性があるそうです(上記日経新聞記事)。

また、特例適用のために信託銀行の「遺言信託」で公正証書遺言まで作成して万全の節税対策をしたつもりが通用しなくなるかもしれません。

結論は「相続税を安くしてもらいたいなら、親と同居しろ」ということになるのでしょうか?

単純に相続税対策だけでなく、広い視野に立って相続問題を考えるならば、弁護士に相談して下さい。

以  上