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コラム

遺留分減殺請求権(遺留分侵害額請求権)を行使する対象

投稿日

2019.06.07

投稿者

松本敬介

カテゴリー

その他の民事・家事事件

遺言書作成・相続・財産管理

1 遺留分減殺請求権から遺留分侵害額請求権へ
今回は、遺留分減殺請求権(遺留分侵害額請求権)を行使する対象についてお話します。

以前、遺留分減殺請求権の行使の期限についてお話したときに、「遺留分」とは何かということからお話しました。
(詳しくは、前々回のコラムをご参照下さい。)

簡単にいうと、遺留分とは、相続人に保障される相続財産の一定割合のことです。

そして、この保障されるべき一定割合を超えて、処分行為が行われた場合に、遺留分減殺請求権を行使することで、侵害された分だけ処分行為の効力を消滅させて、取り返せるわけです。

さて、この遺留分減殺請求権は、平成30年相続法改正により「遺留分侵害額請求権」に変わりました。変わったのは名称だけではありません。根本的に性質が変わったのです。
どういうことでしょうか。

先に述べたように、「遺留分減殺請求権」は、遺留分が侵害されている限りで処分行為の効果を消滅させ、その結果、侵害されている分の権利を遺留分権利者に帰属させる権利です。
例えば、不動産を遺贈されたことにより遺留分を侵害された場合は、遺留分減殺請求権を行使することにより、侵害された分だけ、遺留分権利者に不動産の持分が戻ってくるわけですね。ただし、不動産の受贈者と遺留分権利者とで不動産を共有することになるので、別途、共有状態の解消を考える必要が生じます。

これに対して、「遺留分侵害請求権」は、処分行為の効果を消滅させない代わりに、遺留分侵害額に相当する金銭の給付を求める権利です。
例えば、不動産を遺贈されたことにより遺留分が侵害された場合は、遺留分侵害額請求権を行使することにより、侵害額に相当する金銭の給付を請求することになります。

2 対象となる処分行為
 
さて、現行民法では遺留分減殺請求権、改正法では遺留分侵害額請求権と構成されるわけですが、行使する対象となる処分行為は次のとおりです。

まず現行民法では、
➀遺贈(現行民法1031条)
が対象となり、遺贈に準じて扱うべきことから
➁死因贈与
も対象となります。

また、
➂相続開始前の1年間になされた贈与(現行民法1030条前段、1031条)
➃相続開始の1年前の日より前の贈与で、かつ当事者双方が贈与契約締結時において、遺留分権利者に損害を加えることを知っていた場合の贈与(現行民法1030条後段、1031条)
が、対象となります。

ここでいう、「贈与」とは、被相続人が生前に交わした贈与契約のほか、無償での債務免除や担保の提供を行っていた場合など、全ての無償処分を含むものと解されています。

もっとも、➂と➃にもかかわらず、
➄特別受益(現行民法903条1項)にあたるような贈与については、現行民法では、期間の制限なく対象となります(現行民法1414条)。
特別受益にあたるような贈与とは何かというと、共同相続人に対する贈与であって、かつ、「婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として」の贈与のことをいいます。

その他、
➅売買などの有償行為であっても、対価が不相当な場合であって、当事者双方がこれによって遺留分権利者に損害を加えることを、有償行為時に知っていた場合(現行民法1039条)
も対象となります。

次に改正法のもとでは、上記➀~➃、➅については現行民法と同様です(新法1044条1項、1045条)
しかし、➄の特別受益については、
➄’ 特別受益にあたるような贈与で、かつ、相続開始前の10年間にされた贈与(改正民法1044条1項・3項)
となります。
現行民法のもとでは、共同相続人に対する贈与は特別受益と認められる限り、期間の制限なく対象とできたのに、改正法のもとでは10年という期間制限が設けられたのです。

 さて、遺留分減殺請求権ないし遺留分侵害額請求の、行使の対象は以上のとおりですが、行使の順番にもルールがありますので、また別の機会にお話をしたいと思います。