1 賃借人の過失により第三者に生じた損害については,賃借人が責任を負うことになります。しかしながら,賃貸人も責任を追及される場合があります。
2 次のような事案で,大阪高裁は,賃貸人の損害賠償責任を認めました(大阪高裁平成28年1月28日判決)。民法717条1項の土地工作物責任によりYにも責任があるとしたのです。
なお,本件では,賃貸人は会社であり,その代表取締役や取締役に対する損害賠償請求もなされていましたが,代表取締役・取締役の責任は,認められませんでした。
⑴ 賃貸人Yは,その所有する建物を賃借人Aに賃貸していました。
Aは,Yの承諾無しに,建物をカラオケ店に改装し,部屋数を増やしたり,窓を塞いだりしました。そのため,建物は消防法等に違反する状態になっていました。
Y ――――Y所有建物賃貸借―――→ A (無断改装)
⑵ カラオケ店従業員の過失(揚げ物をするため鍋に油を入れて加熱していたが,このことを失念し,放置)により,建物が火災になり,カラオケに来ていた客3名が死亡しました。
⑶ 死亡した客3名の遺族が,A,Y,Z1(Yは会社であり,その代表取締役です),Z2(Yの取締役です)に対し,損害賠償を求め,訴えをおこしました。
3 賃貸人であるYの責任を認めた大阪高裁の判断を,紹介します。
大阪高裁は,以下①~③のように述べ,Yが民法717条1項の占有者にあたるとして,Yに責任があるとしました。
① 民法717条1項が,危険な工作物を管理支配する者が当該危険が具体化したことによる責任を負うべきであるという危険責任の考え方に基づくものであることからすると,同項の「占有者」とは,被害者に対する関係で土地工作物から生ずる危険を管理,支配し,損害の発生を防止し得る地位にある者をいうと解するのが相当である。そうすると,Yは,Aに直接占有を委ねていることをもって,直ちに同項の占有者に当たらないということはできない。
② もっとも,上記のとおり,同項の責任が当該工作物に対する管理支配の可能性があったことを責任の根拠とするものであることに照らすと,間接占有者の占有が観念的な占有にとどまる場合には,同項の占有者に当たるとはいえないと考えられる。したがって,間接占有者であっても,当該間接占有者が被害者に対する関係で土地工作物から生じる危険を管理支配し,損害の発生を防止し得る地位にあると認められないときには,民法717条1項の責任を負わないと解すべきである。
賃貸借契約上,Yには,建物への立入権が認められ,またAが無断で改装工事等を行った場合には,契約解除や,工事の中止を求めることも可能であったから,建物の危険の管理,支配をAにすべて委ねているとは解されない。むしろ,YはAに劣らない管理権限を有していたものといえる。Yは,本件建物の危険を管理支配すべき地位にあると認められるから,民法717条1項の「占有者」に当たる。
③ Yは,本件建物の改装や用途変更について,その事実に気付いていながら,その管理権限を行使するどころか,事実確認さえ行っていなかったから,民法717条1項ただし書の免責事由は存しない。
4 コメント
1 大阪高裁は,①賃貸借の場合において,賃貸人が民法717条1項の「占有者」にあたる場合があり,②賃貸人の占有が観念的にものにとどまる場合は,「占有者」にあたらないとしました。そして,③管理権限を行使せず放置していた以上は,民法717条1項の責任を免れないとしました。
2 私見としては,大阪高裁が「Yが民法717条1項の占有者にあたると判断した」点に反対です。確かに,契約書上はYに建物への立入権等管理権限が付与されてはいました。しかし,立入権などは一般的に規定されているものです。これらの規定を根拠にして,Yが建物の危険を管理支配すべき地位にあると論じたのは説得力がないと思います。本件は建物1棟が賃貸されていたケースであり,実際上,Yが建物の管理を行っていなかったものです(行うことも予定されていません)。そのようなYに民法717条の責任を負わせるのは,同条の趣旨からしても,いきすぎであると思います。 |