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コラム

不正指令電磁的記録(ウィルス)作成等罪について

投稿日

2019.03.11

投稿者

吉井 和明

カテゴリー

IT法務

刑事

最近、インターネット掲示板に、他人の作成した、いわゆるブラウザクラッシャーのリンクを貼ったことに関し、女子中学生と男性の二人が家宅捜索を受けたとの報道がありました(サンケイスポーツ2019.3.14記事)。

ブラウザクラッシャーは、インターネット黎明期からネット上のいたずらとしてよくある手法で、ブラウザのウィンドウを次々に開く命令を飛ばすことで、ブラウザを開いている間、ブラウザやPCに負担をかけるものですが、このような行為にまで、不正指令電磁的記録供用の罪が問われてしまうことについては、様々なところで、非難や驚きの声が上がっています。

ここで、不正指令電磁的記録作成等罪における「不正指令電磁的記録」とは、すなわち、(1)人が電子計算機を使用するに際して、(2)人の意図に沿うべき動作をさせず、又は人の意図に反する動作をさせる、(3)不正な指令を与える電磁的記録又は、(4)不正な指令を既述した電磁的記録その他の記録、をいいます(刑法168条の2第1項)。

上記の要件のうち、(2)は、プログラム(電磁的記録)が人の意図に反しさえすれば要件を満たしてしまうため、挙動について逐一同意をとっていないような場合には、すべからく該当してしまう可能性のある相当に広汎な定義といえます。なお、立案担当者による解説によれば、ここでの意図は、「個別具体的な使用者の実際の認識を基準として判断するのではなく,当該プログラムの機能の内容や,機能に関する説明内容,想定される利用方法等を総合的に考慮して,その機能につき一般に認識すべきと考えられるところを基準として判断する」ものとされていますが(総務省「いわゆるコンピュータ・ウィルスに関する罪について」)、このような解説により、ある程度の具体化の努力はされてはいるものの、その内容は未だ抽象的であり、一般に認識すべきところ、とは何かという意味で解釈の余地を残していることになります。

次に、「不正な指令」における「不正」について、上記の立案担当者の解説によれば、「機能を踏まえ,社会的に許容し得るものであるか否かという観点から判断することとなる」とされていますが、これもまた相当に幅のありうる内容であり、これを踏まえ、検察庁において、起訴不起訴をどのように判断するか、裁判所において、有罪無罪の判断をするかに関しては、個々の検察官、裁判官の評価次第というほかないでしょう(なお、この「不正」に関しては、国会での答弁をまとめたブログがあり、そちらも参考となります(高木浩光@自宅の日記「懸念されていた濫用がついに始まった刑法19章の2「不正指令電磁的記録に関する罪」))。

不正指令電磁的記録に関する罪に関しては、昨年一斉に摘発されたコインハイブ事件においても、記録保管罪の成否が現在、横浜地裁で争われているところですが、ここでも、「意図に沿う」「不正」が争われており、また、故意、「実行の用に供する目的」も争いとなっています。(弁護士ドットコムNEWS「コインハイブ事件、男性に罰金10万円を求刑 弁護側は無罪主張」

不正指令電磁的記録作成等罪に関しては、上記の不正指令電磁的記録に当たるかという大きな問題のほかに、正当な理由があるか、人の電子計算機における実行の用に供する目的があるか、作成、提供、供用、取得保管に当たるか、といった様々な論点があり、上記の女子中学生の事件に関しては、リンク先URLを貼り付けるだけの行為が「供用」にあたるか疑問であるとの指摘もあるところです。(弁護士ドットコムNEWS「『無限アラート』で女子中学生を補導、「リンク貼り付け」で摘発をどう考えるか」

このように、不正指令電磁的記録作成等罪は、解釈の幅が広く、またその解釈自体、固まっているとはいいがたい罪であって、仮に同罪の嫌疑をかけられた場合や、逆に同罪による告訴などを考えているような場合には、この分野に詳しい専門家にご相談いただいた方が良いかと思われます。