「法務局における遺言書の保管等に関する法律」が令和2年7月10日から施行され,自筆証書遺言書保管制度がスタートしました。
今回は,この自筆証書遺言書保管制度について説明したいと思います。
1 自筆証書遺言書保管制度とは
遺言の種類には,公正証書遺言,秘密証書遺言,自筆証書遺言の3種類があります。
なかでも,自筆証書遺言は,全文,日付及び氏名を自書し,印鑑を押せば作成でき,特に費用もかからず最も簡単に作成できます。
このように,簡単に作成できるのが自筆証書遺言のメリットですが,自筆証書遺言書を作成したことを相続人に知らせた場合,不利益を受ける相続人が遺言書を偽造,あるいは隠匿してしまう,といった事態も考えられます。
また,自分で遺言書を保管しておくと,紛失してしまうおそれもあります。
そこで,簡単に作成できるという自筆証書遺言のメリットを生かしつつ,相続人による遺言書の隠匿・偽造や遺言書の紛失を防ぐための制度が自筆証書遺言書保管制度です。
2 手続の流れ
自筆証書遺言書保管の手続の流れは次のようになります。
① 自筆証書遺言書を作成する。
自筆証書遺言書を作成する際には,法務省令で定める様式に従って作成しなければならないので,注意が必要です(法4条2項)。
また,保管の申請をする自筆証書遺言書は,封をしていないものでなければなりません(法4条2項)。
② 保管の申請をする遺言書保管所を決める。
保管申請ができるのは,遺言者の住所地,遺言者の本籍地又は遺言者が所有する不動産の所在地のいずれかを管轄する遺言書保管所(法務局)です(法4条3項)。
③ 申請書を作成する
④ 申請の予約をする
保管申請をする際には事前の予約が必要となります。
⑤ 保管の申請をする
保管の申請をする際には,遺言者が自ら遺言保管所に出頭しなければならず(法4条6項),病気等の理由で遺言者本人が出頭できない場合であっても,代理人による申請は認められていません。
遺言者本人が出頭できない場合には,自筆証書遺言書保管制度を利用せずに自筆証書遺言を作成するか,公証人に出張を依頼して,公正証書遺言を作成する,という方法を検討することになります。
⑥ 保管証を受け取る
3 保管後の閲覧
(1)遺言者による閲覧
遺言者は,保管されている遺言書を閲覧することができます(法6条2項)。
(2)関係相続人等による閲覧
遺言者の生存中は,遺言書を閲覧できるのは遺言者のみであり,相続人,受遺者,遺言執行者等の関係相続人等は,遺言書を閲覧することはできません。
遺言者の死亡後には,関係相続人等は,遺言書の閲覧をすることができます(法9条3項)。
4 遺言の内容を変更したい場合
遺言書の保管を申請したものの,その後に気が変わって遺言の内容を変更したいということもあると思います。
そのような場合には,次のような2つの方法があります。
(1)古い遺言書はそのままにして新たな遺言書の保管を申請する方法
前の遺言が後の遺言と抵触するときは,その抵触する部分については,後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなされます(民法1023条1項)。
古い遺言書はそのまま保管しておいて,新たに遺言書の保管を申請することも可能です。この場合には,古い遺言と新しい遺言が抵触する限度で古い遺言は撤回したものとみなされ,遺言の内容は変更されることになります。
(2)保管の申請を撤回する方法
遺言者は,保管の申請を撤回することにより,遺言書を返還してもらうことができます(法8条1項,4項)。
そして,古い遺言書の返還を受けた上で,新たな遺言書の保管を申請することにより,遺言の内容を変更することができます。
ただし,遺言書の保管の申請を撤回したからといって,返還を受けた遺言書が効力を失うわけではなく,依然として自筆証書遺言としての効力を有している点に注意が必要です。
5 関係相続人等が遺言書が保管されていることを知る方法
遺言者が,関係相続人等に,遺言書保管所に遺言書を保管していることを伝えていればよいのですが,伝えていないという場合も考えられます。
そこで,関係相続人等に遺言書が保管されていることを知らせるため,次のような制度があります。
(1)関係遺言書保管通知
遺言者の死亡後に,関係相続人等が,保管されている遺言書を閲覧したり,遺言書情報証明書の交付請求をした際に,他の関係相続人等に,遺言書が保管されていることが通知されます(法9条5項)。
(2)死亡時の通知
上記の通知は,遺言者が死亡すれば自動的に行われるわけではなく,関係相続人等の誰かが閲覧等の請求をしなければ,通知がされることはありません。
そこで,関係遺言書保管通知制度を補うものとして,遺言書保管官が遺言者の死亡の事実を確認した場合には,あらかじめ遺言者が指定した者に対して,遺言書が保管されていることを通知する制度が死亡時の通知です。
遺言者が死亡時の通知を希望する場合には,遺言書の保管の申請をする際に,推定相続人,遺言書に記載された受遺者等,遺言執行者等の中から1名を通知対象者として指定します。
なお,死亡時の通知制度は,令和3年度以降から本格的に運用を開始する予定です。
6 最後に
以上のように,自筆証書遺言書保管制度を利用することにより,遺言書の隠匿・偽造や紛失を防ぎつつ,簡易に遺言書を作成することができますが,遺言書保管官は,あくまで遺言書が自筆証書遺言の要件を満たしているか,自筆証書遺言が法務省令で定めた様式に従って作成されているか,といった外形的な確認を行うにとどまり,その遺言書により相続人間にトラブルが発生しないか,といったことまでは審査はしてもらえません。
自筆証書遺言書保管制度を利用する前に,遺言書の内容について弁護士にご相談いただければ,遺言書により相続人の間にトラブルが発生するのを事前に防ぐことができます。
遺言書の作成でお悩みであれば,まずはお気軽に弊所までご相談ください。