最近,退職を希望する従業員に代わって退職手続を行う,退職代行業が注目を集めています。
インターネットを検索すると,退職代行業者のサイトが数多くあり,各業者の料金やサービス内容を比較する比較サイトまで存在します。
ある日,突然会社に退職代行業者から退職届が送られてきた場合にはどのように対応したらよいのでしょうか。
【退職代行業は適法なのか】
1 そもそも,退職代行業が違法であれば,退職代行業者から通知が送られてきても,「退職代行業は違法なので,退職の通知も違法であり無効です。」と拒否して終わり,ということになります。
2 では,退職代行業は違法なのでしょうか。
ここで問題になるのが,弁護士でない者が報酬を得る目的で法律事務を取り扱ってはならない,と規定している弁護士法72条です。
退職代行業については,弁護士でない者が法律事務を取り扱うものであり,すべて違法という考え方もあります。
しかし,代理人としてではなく,あくまで使者として従業員の退職の意思をそのまま伝えているだけであれば,法律事務を取り扱っているということにはならず,適法と考えるのが一般的なようです。
3 なので,退職代行業者が従業員の退職の意思をそのまま伝えているだけならば,弁護士法に違反せず適法ということになります。
ただし,退職の意思を伝えるだけでなく,退職金や残業代の支払交渉も持ちかけてきた場合には,これは法律事務に当たるため,弁護士法72条違反となります。このような場合には,弁護士法72条違反の非弁行為に当たることを理由に,交渉を拒否することができます。
【従業員を引き留めることはできるのか】
これは,退職届が辞職の意思表示と解釈できるのか,あるいは合意解約の申入れと解釈できるのかによります。
1 辞職とは,労働者がその一方的な意思表示によって労働契約を解約することをいいます。
労働者は,労働契約に期間の定めがない場合,2週間の予告期間をおいていつでも辞職することができます(民法627条1項)。
一方的な意思表示なので,会社が受理を拒否しても,予告期間が経過すれば効力が生じることになります。
2 これに対し,合意解約とは,両当事者の合意に基づいて労働契約が終了することをいいます。
この場合,労働者が合意解約を申し入れ,会社が承諾をすることにより合意解約の効力が生じることになります。つまり,会社は,労働者の合意解約の申入れを受理せず,引き留めを図ることもできるのです。
3 辞職の意思表示なのか,合意解約の申入れに当たるのかは,退職届が提出された状況や,退職届の内容によって判断されることになりますが,わざわざ退職代行業者を利用していることからすると,従業員の退職の意思は固いと思われ,辞職の意思表示と解釈されることが多いと思われます。
なので,多くの場合,従業員を引き留めることはできないことになると思われます。
【会社はどのように対応すべきか】
1 退職を拒絶せず,退職手続を進める
退職代行業者から退職届が届いたにもかかわらず,退職を拒絶したりすると,なかなか退職させてくれないブラック企業だという悪いうわさが流れたり,従業員に貸与しているものの返還が遅れるなどのデメリットが生じるおそれがあります。
多くの場合,従業員の引き留めを図ったとしても,上記のデメリットを上回るメリットはないと思われます。会社としては,無理に引き留めを図らず,退職手続を進めたほうが得策といえます。
2 従業員本人に通知を送る
「●年●月●日に退職届を受領しました。」という内容の通知を従業員本人に送っておけば,後々退職届が合意解約の申入れと解釈された場合であっても,合意解約が成立したことの証拠になります。
また,退職届が従業員本人が知らないうちに勝手に提出されたものであった場合,従業員本人が異議を申し立てる機会を与えることにもなります。
後のトラブルを防止するためにも,退職届を受領した旨の通知を従業員本人に送っておいたほうがいいでしょう。
なお,通知を送る際には,郵便で文書を送るとともに,同じ内容のメールを送るなど,後で証拠が残るような形で送ったほうがよいでしょう。
3 貸与物の返還を求める
退職届の受領通知を送る際に,従業員に貸与しているものがあれば,一緒に貸与物の返還を求めましょう。
4 残業代支払の交渉を持ちかけてきた場合には断る
弁護士が代理人として残業代支払いの交渉を持ちかけてきた場合にはもちろん適法ですが,退職代行業者が残業代支払い等の交渉を持ちかけてきた場合には,弁護士法に違反することを理由に交渉を断りましょう。
間違った対応をすると,なかなか従業員を辞めさせないブラック悪い企業だ,などと悪いうわさが広まりかねません。もし,対応に不安があるのであれば,弁護士に相談することをお勧めします。