弁護士の関です。
今回はクレプトマニア(窃盗症や窃盗依存症ともいいます。以下では、「クレプトマニア」に統一します。)のご家族について少し書いてみたいと思います。
クレプトマニアは勿論本人にとっても本当に苦しく、恐ろしい病気ですが、同時にご本人のご家族にとってもある面ではそれ以上に辛い病気です。
一例を挙げれば、私がこれまでクレプトマニアの方の弁護を担当したケースで、最も多くを占めるのは、ご本人ではなくそのご家族(ほとんどはご本人のご両親)からご連絡をいただいて弁護を依頼されるものです。福岡県外からわざわざ私の事務所を調べてご連絡をいただくことも少なくありません。
その際にご家族の多くは、何年、時には何十年も家族のクレプトマニアに悩み苦しんでいたことを吐露されます。
具体的には、最初は明確もないまま万引を繰り返すことに驚くしかなかった、原因が分からずどうしていいか分からなかった、精神科等の病院を受診してカウンセリングをいくつも受けたがはっきりとした効果がなかったと言ったことを懸命に述べられます。
驚くことに、そういったご家族のほとんどは、私でも舌を巻くほどにクレプトマニアについて勉強されており、積極的に講演などにも足を運び、書籍にもきちんと目を通されています。そして、自分の家族が残念ながらクレプトマニアなのではないかと、素人ながら確信しているのです。
しかしながら、私のところに連絡してきたということは、そういったよく勉強されている方がご家族にいても、残念ながらご本人は万引を繰り返し、起訴されて実刑の可能性が高い状況になっていることを示しています。
理由は極めて単純で、ご本人自体がご自分のクレプトマニア罹患やその治療の必要性を認識していないためです。つまり、その他の病気と一緒で、本人に病識がなければ周囲の人間には基本的にどうすることもできないのです。
私へ連絡してきた前後に、ご本人が専門医療機関の治療を受けられるようになると、多くのご家族は涙を流さんばかりに喜び、ここまで長かったと口々に言われます。
私はそういった場面に立合う度に、ご本人が治療を開始できる機会を得たことを喜ばしいと思う反面、ご家族のこれまでの労力や今後のサポートを考え心配になります。単純に体力的にいつまでこれを続けられるのだろうかと感じてしまうこともあります。
先ほども述べましたように、ご本人がクレプトマニア罹患の事実と治療の必要性について認識していなければ、周囲の人はどうすることもできません。家族であったとしても同様です。言うまでもなく本人の首に縄を付けて病院へ連れて行くことなどできないし、するべきでもありません。私の経験からすれば、ご家族がクレプトマニアの知識習得等にのめり込めば込むほど、本人は自分は違うと考える傾向もあります。
したがって、ご家族にできることは、本人がクレプトマニアや治療に興味を持った時に協力する程度であり、良い意味で適当な距離感を持ってクレプトマニアという病気と付き合って行くことが大事です。
もしご自分の家族がクレプトマニアかもしれないと気付いたら、おそらくそのショック、恐怖は想像を絶するものでしょう。そしてその恐怖はクレプトマニアを知れば知るほど増幅していくのです。
しかしそれでも、(非常に難しいことですが)やはり冷静に本人と適切な距離を持って見守ることも重要です。そして、本人が治療の必要性等を感じた場合に、必要な範囲でサポートするのが、長くクレプトマニアという病気と付き合って行く上で、結局は本人にとっても、家族の方にとっても、良い結果を生むことになると思います。