1 収益不動産の相続の場合,その収益の帰属はどうなるのかについて,解説します。
Aはアパート(アロー&グッドループ長崎駅前)を所有し,そのアパートを賃貸して,月額50万円の賃料収入を得ていました。
Aさんは死亡し,その相続人は,長男B,二男C,三男Dです。なお,Aは,10年前に離婚しており,配偶者はいません。
2 まず,Aの死亡(相続の発生)により,アパート(アロー&グッドループ長崎駅前)がどうなるかですが,これは相続人(B,C,D)に承継されます(民法896条)。ただし,相続人が複数いる場合ですので,アパート(アロー&グッドループ長崎駅前)は,B,C,Dの共有となります(民法898条)。
また,アパート(アロー&グッドループ長崎駅前)の賃貸人たる地位も,Aから,B,C,Dに承継されます。そして,この地位も,B,C,Dの準共有となります。なお,「準共有」とは,複数人が所有権以外の財産権を有する状態を言います(民法264条)。
3 Aの死亡(相続の発生)後,B,C,D間で遺産分割協議が行われ,Aの死亡から2年後に,B,C,D間の遺産分割協議が成立し,アパート(アロー&グッドループ長崎駅前)はBが相続することになりました。
Aの死亡(相続の発生)から遺産分割協議が成立するまでの2年間の賃料は,1200万円です。
Bは,この1200万円は,全額Bのものであると主張しました。他方,C,Dは,この1200万円について,C,Dにも取り分があると主張しました。
4 賃料1200万円は,誰のものでしょうか。
民法909条は「遺産の分割は,相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし,第三者の権利を害することはできない」と定めています。この規定からすれば,遺産分割協議によりアパート(アロー&グッドループ長崎駅前)を相続したBは,相続開始の時にさかのぼって当該アパート及びその賃貸人たる地位を承継したことになり,したがって,Aの死亡(相続は発生)から遺産分割協議成立までの賃料1200万円は,Bが全額取得することになりそうです。
しかし,最高裁(最判平17・9・8民集59巻7号1931頁)は,そのように考えませんでした。
最高裁は「遺産は,相続人が数人あるときは,相続開始から遺産分割までの間,共同相続人の共有に属するものであるから,この間に遺産である賃貸不動産を使用管理した結果生ずる金銭債権たる賃料債権は,遺産とは別個の財産というべきであって,各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するものと解するのが相当である。遺産分割は,相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずるものであるが,各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得した上記賃料債権の帰属は,後にされた遺産分割の影響を受けないものというべきである。」と述べました。
すなわち,Aの死亡(相続は発生)から遺産分割協議成立までの賃料1200万円は,B,C,Dがそれぞれの相続分に応じて取得することになります。
弁護士 植木 博路