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弁護士法人 ALAW&GOODLOOP | 福岡・北九州・長崎の企業法務、法律顧問契約、法律相談

コラム

eスポーツと法⑶

投稿日

2022.01.04

投稿者

畑田将大

カテゴリー

IT法務

その他企業法務全般

知的財産・営業秘密

本稿では,前回に引き続き,eスポーツ(「electronic sports」の略)について執筆させていただきます。

 

1 eスポーツの労働者性

 皆さんは労働者という立場になったことがあるでしょうか。多くの方々は,学生時代のアルバイトや新卒入社の際に,会社と労働契約を締結し,労働者として働いていたのではないでしょうか。

しかし,労働者ではなく,個人事業主や会社経営者として働いている方もいらっしゃるでしょう。労働者なのか,そうではないのか。この違いは,どこに現れるのでしょうか。

この点,社会保険や税金等々,違いは多くありますが,あえて1つ挙げるとすれば,労働基準法や労働契約法という法律が適用されるかどうかでしょうか。両法律上の「労働者」(以下「労働者」として記載する場合は,「労働基準法上,労働契約法上の労働者」という意味を表します。)としてこれらの法律が適用されると,使用者には,最低賃金等の遵守はもちろんのこと,「労働者」を所属団体から辞めさせることも難しくなります(解雇権の濫用)。

それでは,プロeスポーツプレイヤーは,法律上の「労働者」でしょうか。昨今,プロeスポーツチームを作りたいという法人のお客様からの相談が多数ございましたので,改めて本コラムで解説させていただきます。

 

2 そもそも「労働者」とは?

まずは,どのような方が「労働者」なのか解説いたします。

この点,中には「労働契約書を作成すれば労働契約なんだから,働く人は労働者になるのでは?」と回答される方もいらっしゃいます。たしかに,「労働契約書」という表題のある契約書にサインをしているのだから,その契約を理由に,働いている人は「労働者」に見えるかもしれません。しかし,法的に「労働者」といえるかどうかは,「労働契約書」という形式面だけでなく,実態面も重視します。つまり,「労働契約書」と記載しておきながら,中身を見ると業務委託契約であれば,「労働者」とはいえない場合もあるのです。

そして,実態が「労働者」なのかどうかは,時間的場所的拘束性の有無,指揮命令の程度,報酬の支払方法や金額等に着目して個別具体的に判断されます。

 

3 プロeスポーツプレイヤーは「労働者」か?

さて,上記のとおり,「労働者」といえるかどうかは,実際に働いている方の勤務状況や契約内容を個別具体的に検討しなければ,「労働者」か否か判断することはできません。そのため,eスポーツプレイヤーが「労働者」か否かも,この場で明確に申し上げるのは難しいのです。

一つ,参考となる実例を挙げると,野球やサッカーのプロ選手たちは,「労働者」ではないという見解が通説のようです。実務上もこの通説に従って運用されております。これらのスポーツ選手のプレイには高い専門性があり,チームに拘束される期間・日時も限定的であること,年俸制や出来高払いといった報酬支払方法を採用しているケースが多いこと,高額報酬も見込めることなどが理由として挙げられます。プロeスポーツプレイヤーにもこのような特徴を備えていれば,「労働者」性を否定する方向に傾くのでしょう。

 

4 まとめ

プロeスポーツプレイヤーを「労働者」と位置付けるかどうかで,適用される法律が変わり,そして,プレイヤーを抱えるチームが守るべきルールも変わってきます。もし判断を誤れば,思わぬ法的トラブルに巻き込まれる可能性もあるのです。

プロeスポーツチームの運営をお考えの方は,是非一度弁護士にご相談ください。

 

参考文献

・eスポーツ問題研究会編著「eスポーツの法律問題Q&A―プレイヤー契約から大会運営・ビジネスまで―」民事法研究会 2019年