第1 はじめに
株主には、株主総会における議決権が認められています(会社法(以下、「法」といいます。)105条1項3号)。そのほかにも、株主には、株主総会における質問権(法314条)や提案権(303条以下)が認められています。このような権利は、株主が会社の経営に参加するために不可欠なものであり、株主権の中核をなす権利ともいえます。このような権利が侵害され、違法な株主総会決議がなされた場合、株主らはどのように対応すれば良いのでしょうか。
会社法においては、①株主総会決議取消訴訟(法831条)、②株主総会決議無効確認の訴え(法830条2項)、③株主総会決議不存在確認の訴え(法830条1項)の3つが規定されています。それぞれの訴えは、訴えを提起できる要件や請求が認められる要件に違いがあります。
今回は、この3つのうち①株主総会決議取消訴訟についてご説明いたします。
第2 株主総会決議取消訴訟が認められる要件
1 訴訟要件
訴訟要件とは、裁判所に訴えを提起するうえで充足しなければならない要件のことです。訴訟要件を充足しない場合には、株主総会決議が違法であるかという実質的な審理を行うことなく却下判決がなされます。そのため、却下判決は、門前払い判決と呼ばれることもあります。
⑴ 原告適格
原告適格とは、訴えを提起することが認められる資格のことです。株主総会決議取消訴訟については、株主や取締役などに原告適格が与えられています(法828条2項1号)
⑵ 提訴期間の制限
株主総会決議取消訴訟は、株主総会決議のあった日から3か月以内に提起しなければなりません(法831条1項柱書)。会社は株主総会決議が有効であることを前提に事業活動を日々行い、契約など様々な法律関係を形成していきます。そのため、時間が経過してから株主総会決議が取り消されると数多くの契約等の法律関係にも影響を与えることとなります。そこで、会社法は、法律関係の早期安定の観点から、提訴期間に制限を設けています。
⑶ 訴えの利益
株主総会決議取消訴訟を提起して勝訴したとしても、実益がないような場合には訴えの利益がないとして、却下判決がなされます。
具体例としては、取締役を選任した株主総会決議の訴えを提起したが、当該取締役が任期満了で既に退任した場合などが挙げられます。
2 取消事由
訴訟要件を充足していることを前提として、どのような場合に、株主総会決議取消訴訟が認められるのでしょうか。会社法は、以下の3つの場合に株主総会決議の取消が認められると規定しています。
① 株主総会等の招集の手続又は決議の方法が法令若しくは定款に違反し、又は著しく不公正な場合
② 株主総会等の決議の内容が定款に違反する場合 ③ 株主総会等の決議について特別の利害関係を有する者が議決権を行使したことによって、著しく不当な決議がされた場合 (会社法831条1項各号) |
もっとも、このいずれかに該当する場合であっても、裁判所は、その違反する事実が重大でなく、かつ、決議に影響を及ぼさないものであると認めるときは、同項の規定による請求を棄却することができます(会社法831条2項)
3 判決の効力
株主総会決議を取り消す旨の判決がなされた場合、その判決の効力は、訴訟に関与していない第三者に対しても効力が生じます(法838条)。会社法がこのような規定を設けているのは、株主総会決議の効力というのは様々な利害関係者に影響を与えるものであり、画一的な判断が必要となるためです。
第3 最後に
今回は、株主総会決議取消訴訟についてご説明いたしました。株主総会決議無効確認の訴えや株主総会決議不存在確認の訴えは、株主総会決議取消訴訟とは異なる訴訟要件や勝訴のための要件があります。その点については、また別の機会にご説明いたします。
本コラムを最後までご覧いただきありがとうございました。
参考文献
伊藤靖史ほか『会社法』第5版 有斐閣 2021年
東京地方裁判所商事研究会『会社訴訟の基礎』 商事法務 2013年