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コラム

SNSの声に耳を傾けた黒田日銀総裁、ときには市場の声にも耳を傾けて下さい。

投稿日

2022.07.19

投稿者

永留 克記

カテゴリー

その他企業法務全般

租税公課

第1 黒田日銀総裁発言、ネットで大炎上、翌日前言撤回

1 最近、黒田日銀総裁の発言、ある講演(以下「きさらぎ講演」という。)の中の、「日本の家計の値上げ許容度も高まってきている」、「いずれにせよ、強制貯蓄の存在等により,日 本の家計が値上げを受入れている間に、」が、インターネット上のSNSで大炎上。

2 Twitterでは、「我が家は『受入れていない』のだが」とか「月給2か月7万円弱で暮らしてみなよ」とか、の反発の声、翌日、黒田総裁は前言撤回。

3 黒田日銀総裁は、きさらぎ講演の中で、東大の渡辺努教授のアンケート結果を紹介。

その内容は、「なじみの店でなじみの商品の値段が10%上がったときにどうするのか」との質問に、昨年は、日本の家計の半数以上は、「他店に移る」と回答、ところが、今回の調査では、「他店に移る」との回答が大きく減少し、「値上げを受け入れ、その店でそのまま買う」との回答が半数以上を占めるにいたったとこと。これらをもとに上記発言。

4 誰も値上げを許容する人などいない、日本の家計の回答は、他店に移ったとしても、どうせ、そこでも値上げを言われそうならば、元の店で買うしかない、という意味の回答。

黒田総裁も、家計が自主的に値上げを受け入れているのではなく、苦渋の選択としてやむを得ず受け入れていることは十分認識しているとされて、前言撤回された。

第2 日銀「粘り強く緩和継続」

1 ところで、令和4年(2022年)4月28日、日銀、大規模な金融緩和の維持、併せて、指定した利回りで国債を無制限で買い入れる「指し値オペ」の毎日実施を決めた。

2 日銀を除く,先進国、その他新興国、のきなみ中央銀行という中央銀行は、インフレ退治のために金融引締め,利上げを行う金融政策に転換したのに、どうして日銀は、「粘り強く緩和継続」を言われるのだろうか?

3 黒田日銀総裁は、記者会見で次のとおり言われた。

すなわち、現在の物価上昇は国際的な資源価格の上昇によるコストプッシュ型インフレだ。日本の交易条件が悪化して所得が海外に流出しており、我々が目指す物価上昇とは異なる。賃金と物価が共に上昇していく形を目指して金融政策を運営していかなければならないと。

黒田総裁は、2022年度にエネルギー価格の大幅な上昇の影響により一旦2%程度まで上昇率を高めるが、その後はエネルギー価格の押し上げ寄与が薄れてプラス幅を縮小していくと予想すると述べられた。

この考え方を支持する人もいる。

(第一生命、新家義貴氏の「コストプッシュインフレに持続性は乏しく、23年には急速に鈍化へ」)。

4 日本経済はいまだデフレギャップにあり、需要面はいまだ弱く、供給超過経済に過ぎず、今の物価上昇を単純にコストプッシュインフレと考えれば、いますぐの利上げは時期尚早とする日銀黒田総裁や新家氏の考え方は私も納得できる。

5 しかしながら、もう一つの日銀の決定事項、すなわち、指定した利回りで国債を無制限で買い入れる「指し値オペ」の毎日実施については大いに疑問がある。

上記「指し値オペ毎日実施」決定は、日本銀行のイールドカーブコントロール政策に基づくものであろうが、私は上記政策自体について反対である。

私は、10年長期国債金利の操作は可能かもしれないが、操作すること自体が相当で無いと考える。

10年ものなどの長期国債の金利は、人々が将来の物価上昇を予想すれば、長期金利は上昇し、将来の物価下落を予想すれば、長期金利は下がる傾向があるとされる。

結局、長期金利は、人々のファンダメンタルの予想、将来物価が上昇するか下落するかの将来予想の結果であり、人々の予想を映し出す鏡のようなものである(日経新聞2022年7月8日記事、同新聞経済部長高橋哲史氏)。

あるベテランのエコノミストは、長期金利を体温計に例えられた。

日銀の福井元総裁は、長期金利の変動には市場の価格発見機能があるとまで、ある講演でおっしゃった。

イールドカーブコントロール政策は、長期金利という鏡をゆがませて、価格発見機能を台無しにするものである。

6 いま、まさに市場が物価上昇の兆しを感じて、長期金利が上昇し始めたのに対し、「指し値オペ毎日実施」はこの長期金利の上昇を無理矢理押さえ込もうとするものである。

なるほど、前記のとおり、黒田日銀や新家氏は、「資源価格の上昇寄与の剥落でCPIも再び伸び率を低下させ、23年には急速に伸びが鈍化し、再びゼロ%台に戻る可能性が高い」と予想しておられる。

「指し値オペ」による日銀の国債無制限買い入れによって、日銀マネーが市場にジャブジャブに供給されて、円安が加速化する。円安は輸入物価を上昇させるものである。

日本国内の取引時間中,円安はさほどでもないのに、夕方から欧米の取引時間に入ると、円安が加速する様子から、黒田総裁たちは、欧米のヘッジファンドが投機的思惑で、先物で円を売って、円安を加速化している、こんな投機筋には負けられないとして、いよいよ「指し値オペ」に拍車をかけておられるかもしれない。

黒田日銀は、欧米の投機筋が日本の将来の物価上昇を予測して、日本国債を先物で売っているのであれば、自分たちの予測が正しく、彼らの予測が間違っていると確信しておられるのかもしれない。

しかしながら、日本国債を売買する債券市場は、ヘッジファンドだけでなく、機関投資家など、幅広く色々な参加者が取引を行っている、そもそも投機筋とは言っても、彼らもクライアントから運用を任されている以上、必死になってファンダメンタルの予測を行って,経済合理性に基づいて,取引に参加して取引をしているはずである。

7 黒田日銀総裁たちの予測が正しいのか、債券市場の参加者たちの予測の結果が正しいのか、直ちに結論を出すことは難しい。

私個人としては、物価上昇について黒田日銀や新家氏の予測のとおり進めば良いと念願している。

さらにFRBの金融引き締めにより、米国経済が景気後退に陥って、インフレ抑制効果が出て、それがエネルギー価格や食料価格の下落につながれば、日本の物価にも良い影響が出てくるかもしれない。

確かに、石油価格などは、米国経済の景気後退や中国のロックダウンなど需要の動きによっては、上昇ばかりでなく、多少落ち着きが出てくるかもしれない。このところ、原油価格も90ドル台になる動きもある。

8 しかしながら、私は、「うし年はつまづく?」や「米国国債の長期金利の歴史とロシアのウクライナ侵攻」で述べたように、現在の世界インフレの根底には、40年前の米国インフレと同じように世界にばらまかれたドルの過剰流動性があると思っている。

現在の世界的インフレの原因は、穀物価格ではラニーニャ現象、石油や天然ガスでは脱炭素、それにウクライナ侵攻での小麦危機や対ロシア制裁がそれらドルの過剰流動性による国際的な投機的思惑と結びついたことによると考える。だから、インフレの根本的な退治には、ドルの過剰流動性の解消が必要。

そうであれば、米国FRBほか世界の中央銀行によるインフレ退治もある程度時間がかかることは覚悟せざるを得ない。

9 日本国内の食糧価格では、6月7月中には、2000品目とも、3000品目とも値上げが予定され、年末までに値上げは1万5000品目に上るとされていること、この8月には電気料金値上げが予定され、この冬にはいよいよ電力逼迫、さらなる電気料金値上げも心配される。

小麦価格は、ウクライナ侵攻による小麦危機は反映されるとすれば、10月一括売渡し価格の上昇は必至とみられること、天然ガス価格では、プーチンによる逆制裁の動きによって国際価格の上昇は必至とみられること、などインフレの種には枚挙にいとまがない。

新家氏は、「日本において、賃金の上昇を通じたサービス価格が上昇していない点も、持続的な物価上昇が展望できない要因の一つである」と指摘されている。

しかしながら、これも、前記の立て続けの食糧価格の上昇、中には2度目も値上げ(例えば,マヨネーズ)も出てきている状況、アルバイトの時給は上昇しており、これが、パート賃金、やがては正社員の賃金上昇につながらないとは断定できないのではないのか?

企業物価指数を見ると、原材料価格の上昇に対し、いつまで企業収益の圧迫や従業員の待遇調整などのシワヨセで対応できるかは疑問である。

消費者は決して値上げを許容していないものの、もはや「他店に移る」とは言わなくなっているとすれば、企業が消費者へ値上げの転嫁を始めるかもしれない。

本年6月24日、総務省が発表した5月の物価上昇率は前年同月比2.5%に上がってしまった。

さらに内訳を分析すると、よく買うものほど価格高騰が鮮明。ガソリンや食品など月1回以上は買う品目は上昇率が5.0%と全体の倍に達する。物価高は統計の見た目以上に家計の重荷となっている可能性がある(日経新聞2022年6月25日記事)。

買い物は奥様任せで、休日でもスーパーに行かれない黒田日銀総裁にはおわかりいただけないかもしれないが・・・。

以上を総合すると、参議院選挙が終わって、俗に言う値上げの秋を迎える9月、10月ころには、消費者物価は、2.1%からジリジリ上がって、3%に限りなく近くなるかもしれない。

8 利上げは時期尚早との黒田日銀の考えを是とするとすれば、米国その他の国との金利差による円安も耐え忍ぶもやむを得ないものの、現在の世界的インフレの予防・根絶には、米国FRBその他の日銀を除く各国の中央銀行が行っている過剰流動性の抑制は正しい。

「指し値オペ毎日実施」によって、市場に過剰流動性を供給し続けて過剰流動性を大きくするのは正気の沙汰ではない。

確かに、為替政策に金融政策を使う中央銀行はない、金融政策はあくまでも物価安定を使命とするという黒田日銀総裁のおっしゃる言葉は正しい。

しかしながら、「指し値オペ毎日実施」は長期金利を無理矢理押さえ込むために市場に過剰流動性を供給することに外ならず、物価の安定、通貨価値の安定とは真逆の行為というべきである。米国FRBその他の日銀を除く各国中央銀行が過剰流動性を抑制してインフレを退治しようとするのを邪魔するものではないのか?

新型コロナ禍で、中小企業の資金繰りを助けた、日本銀行のゼロゼロ融資は大いに評価している。

しかしながら、D.アトキンソン氏がテレビで、自分が経営している会社のような中小企業に対し、10年間もの長期で金を貸してくれる銀行はないと言われた。

日銀は、10年物の日本国債について指し値オペを続けて、一体、誰を助けているのか?

財務省出身の黒田日銀総裁は、財務省理財局を助けているのか?

利上げは、現在は時期尚早としても、上記のとおり、日銀の予測が外れて、物価上昇が今年秋や来年になっても上昇が続き、さらに加速化すれば、「我々が目指す物価上昇とは異なる」などと贅沢なことは言っておられなくなる。

そうすると、いずれは、利上げは回避できないとすれば、利上げの前にバランスシートの抑制、過剰流動性の吸収、いわゆる出口政策が必要であり、しかも、それは時間をかけてゆっくりしなければならない。指し値オペによる国債無制限買い入れは、いよいよ出口政策の実施を難しくするのではないか?

最近、日銀の国債保有割合は5割を超えたそうである。逆ざや問題や手持ち国債の評価損による債務超過を心配する声まで出て来ている。

そうであれば、「指し値オペ毎日実施」は即刻やめるべきであり、すぐにやめるわけにはいかないとあれば、IMFの貴重なアドバイスに従って、「指し値オペ」の対象を短期国債に限定するという方法も考えられる。

黒田日銀総裁には、「ときには市場の声にも耳を傾けて欲しい」と申し上げたい。

最後に住宅ローンを変動金利型で借りている方々に申し上げたい。何事にも限度、限界がある。「粘り強く緩和継続」と言っても永久に続けるわけにはいかない。

超低金利のうちに、繰り上げ返済で完済してしまうか、多少高くても固定金利に切り替えるかなど、工夫が必要。

裁判所にいたとき、離婚事件では、住宅ローン問題、夫婦間の連帯保証問題があるかを必ず質問することにしていた。

何かご質問や相談があれば、当職所属事務所(電話093-967-1652)にお電話下さい。

以  上