1 「所有者不明土地」とは
⑴ 皆さんは、「所有者不明土地」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。
「所有者不明土地」とは、読んで字のごとく所有者が分からない土地、つまり不動産登記簿により直ちに所有者が判明しない、又は所有者が判明してもその所在が不明で連絡がつかない土地のことをいいます。
国土交通省が平成29年に行った調査によると、国土の22%、九州よりも広い土地が所有者不明土地になっているそうです。
⑵ 例えばある土地の上に道路を通すなどの公共事業を行う場合や、災害からの復旧・復興事業を行う場合でも、その土地の所有者の同意なくして勝手に事業を進めることはできません。もし、これから公共事業を進めようと思っている土地の所有者が分からなければ、いつまでも工事を進めることができなくなってしまいます。
また、所有者不明土地は適切な管理が行われず放置されることが多いため、土砂の流出や崩壊による災害が発生するなど、周辺地域に悪影響を及ぼす可能性もあります。
このような弊害を回避するため、①所有者不明土地の発生を事前に予防するための法改正や新法制定、②発生してしまった所有者不明土地の利用円滑化のための法改正が行われています。
今回は、所有者不明土地の発生を事前に予防するための措置の一つである、相続登記の義務化について解説します。
2 所有者不明土地が発生する原因
⑴ 所有者不明土地が発生するのは、相続登記の申請が義務ではなく、申請をしなくてもデメリットが特になかったことが挙げられます。
⑵ 登記をしないと所有権を取得できないの?
私も、自宅の登記名義が亡くなった祖父のままになっているから、自分たちは自宅の所有権を失っているのでは?という相談を受けたことがあります。
外国の中には、そもそも登記をしなければ所有権を取得できないという考え方(成立要件主義)を採る国もあります。
しかし、日本では、登記をしなくても所有権を取得できるものの、登記をしなければ所有権を第三者に対抗することができないという考え方(対抗要件主義)を採用しています(民法177条)。
この所有権を「対抗できない」というのは、所有権の移転という実体法上の効果は存在しているものの、その効果を第三者に対し主張できないという意味です。
つまり、日本の民法の下では、相続登記の申請をしなくても、相続により所有権を取得できることになります。
⑶ このように、日本の民法では、相続登記の申請をしなくても相続により所有権を取得でき、しかも相続登記の申請をしなくても特にデメリットがない(もちろん、第三者が所有者だと名乗り出てきたときには所有権を主張できなくなるという不利益を被る可能性はありますが)ため、相続登記をせずに放置されるケースが多いことが所有者不明土地が発生する原因の一つと考えられています。
そこで、所有者不明土地の発生を事前に予防するための対策として、相続登記の申請が義務化されることになりました。
3 相続登記の義務化について
相続によって不動産を取得した相続人は、所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければならないことになりました。
また、遺産分割の話合いがまとまった場合には、不動産を取得した相続人は、遺産分割が成立した日から3年以内に登記の申請をしなければならないことになりました。
正当な理由なくこれらの登記申請を怠った場合、10万円以下の過料が科されます(この「過料」というのは行政上の義務違反に対して科されるペナルティーのことで、刑罰の一種である「科料」とは異なります。なので、過料が科されたとしても前科にはなりません。)。
なお、相続登記の申請義務化が施行されるのは、令和6年4月1日からですが、令和6年4月1日の時点ですでに相続が発生しており、相続登記の申請がされずにそのままになっていたケースについても適用される点に注意が必要です。
4 住所等の変更登記の義務化
はじめに説明したように、所有者不明土地には、所有者が判明しているものの、その所有者の所在が不明で連絡がつかないものも含まれています。
所有者に連絡がつかないという事態が生じるのは、所有者の住所が変わった場合でも、住所の変更登記の申請をする義務がなかったためです。
そこで、登記名義人は、住所等の変更日から2年以内にその変更登記の申請をすることが義務付けられることとなりました。もし、正当な理由なく変更登記の申請をしなかった場合には、5万円以下の過料が科されることになります。
この住所等の変更登記の申請の義務化は、令和8年4月までに施行される予定です。
【参考文献】
・「民法等一部改正法・相続土地国庫帰属法の概要」(法務省民事局 令和4年6月) https://www.moj.go.jp/content/001375975.pdf
・「所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し」(法務省民事局 令和3年12月)https://www.moj/go.jp/content/001362336.pdf
・所有者不明土地ガイドブック(国土交通省 令和4年3月)
以上