2026年3月はじめ、米国の大銀行JPモルガンCEOのダイモン氏は、世界市場全体に「かなりの慢心」が広がっており、そのようなとき一つのリスクによって世界市場全体に大動揺を与えるようなことがあるかもしれないと警鐘を鳴らした。彼は、そのリスクの一つにインフレを挙げ、これをスカンクに例えて、「パーティーの最中にスカンクが現れたようなものだ」と述べた。
いまリスクを挙げるとすると、さしずめ米国とイスラエルの攻撃を受けたイランがホルムズ海峡を封鎖し、その影響で原油価格が高騰していることであろう。原油輸送でホルムズ海峡を利用する割合は世界の原油取引で2割を占めるだろうと言われる。とりわけ大きな影響を受けるのは、アジアの各国である。中国は、原油輸送の7割、その他タイや韓国などアジア諸国、原油輸送の大半をホルムズ海峡に頼っている。日本に至っては、原油は全量輸入で、ホルムズ海峡経由が原油輸送全体の8,9割を占めるとされる。
2026年3月現在WTI原油先物価格は一時1バレル当たり100ドルを超えており、米国では、原油から生産されるガソリン価格が1ガロン当たり3ドルを超えて、車社会の米国の一般市民を不安と不満に陥れており、このままでは今年11月の中間選挙でもトランプ大統領の共和党は大いに苦戦するといわれている。
原油価格の高騰は、米国、日本など世界中で大きな悪影響を及ぼし、きわめてやっかいである。原油からは自動車運転に必要なガソリンだけでなく、プラステックの原材料であるナフサがとれる。したがって、原油価格の高騰により、原油を原材料とするガソリン、軽油、重油、ナフサなど派生商品のすべてに値上げが転嫁されて、インフレに火が付く。また他方、ガソリンやナフサなど石油派生商品は、食料品と並ぶ市民生活を支える必需品であり、人々は、値段が高いからといって、買わないわけにはいかず、原油価格の高騰は、人々の購買力を奪うことになって、食料品やガソリンなどを除く、その他商品の売れ行きが悪くなり、消費を冷え込ませて、結局景気後退につながりかねない。
米国FRBのパウエルは先行き不確実だと言い、日銀の植田総裁は、経済の下振れ、上振れいずれになるかわからないと言う。私は、原油価格高騰が長期化すれば、物価上昇と景気後退がいずれもやってくる、いわゆるスタフグレーションになることを心配している。中東の原油タンカーが日本にやってくるのに3週間ほどかかるそうである。ホルムズ海峡が事実上封鎖されて既に幾日か経過しており、いつまで原油が来るのかわからないが、それほどしないうちに原油が来なくなるのだろう。そこで、日本などが加盟しているIAEA(国際エネルギー機関)は、加盟国に対し、それぞれの国の備蓄原油のうち、総計4億バレルの協調放出を求める決定を全会一致で行った。その放出量は過去最大とされるが、原油の世界全体の消費量の4日分と言えば、身もふたもない。決定したときの議長国フランスのマクロン大統領によると、ホルムズ海峡経由の原油の輸出量としては、20日分にはなるとのことである。
日本の高市総理は、上記決定をまたず、3月16日から日本国の民間備蓄の15日分、国家備蓄の1か月分を放出することを決めた。日本からは米国に対し、アラスカ原油の供給を要請するそうだ。それでも足りない場合は、ロシア極東サハリン沖の石油・天然ガス開発プロジェクトの石油や天然ガスをまわしてもらうという手もある。上記開発プロジェクトのサハリン1やサハリン2には、日本は、莫大な出資と技術援助をしてきており、2022年のウクライナ侵攻以降、欧米メジャーが撤退する一方で、日本は過去の出資などの経緯を考慮して、ロシア側が新たに設立した運営会社への出資を継続して権益を維持し、石油と天然ガスのロシアからの供給を継続しているが、この輸入量を増やしてもらうということである。ウクライナのことを考えると、ロシアに石油や天然ガス供給量を増やすことを頼むのは、なるべく避けたいところであるが。
私が申し上げたいのは、ホルムズ海峡封鎖は油断できないが、決してパニックになる必要はないということである。

