管理費はマンションの価値を維持するため必要なものであり、一部の区分所有者の管理費滞納は、当該マンションの全ての区分所有者の利害に関わる問題であると思います。管理費の滞納については話し合いによる解決ができれば一番ですが、それができないことも珍しくありません。
そのようなとき、先取特権(建物の区分所有等に関する法律(以下「法」と言います)第7条)に基づく競売が考えられます。先取特権に基づき競売をし、その売却代金から、管理費を回収するという方法です。競売に先立って訴訟等をする必要がない点が大きなメリットです。ただし、管理費の滞納者の区分所有建物に抵当権がつけられているケースでは、当該建物に剰余価値がないことが多く、その場合には競売を申し立てても意味がないことになります(剰余なしとして競売手続が取り消されることになります)。
また、先取特権に基づく物上代位という方法も考えられます。区分所有建物が売却され、あるいは賃貸されている場合には、先取特権に基づいて、当該売却代金、あるいは当該賃料から滞納管理費を回収するという方法です。区分所有建物が売却等によってお金に変わっても、そのお金に対し先取特権を行使することが認められているわけです。ただし、売却代金や賃料が当該滞納者に支払われる前に、差押えをしなければなりません。管理費の滞納者が売却をしたり、賃貸をしたりしていても、その情報をつかむことは容易ではなく、物上代位による回収は難しいこともあります。
また、法59条に基づく競売請求という方法もありえます。これは、訴訟をして、「競売を申し立てることができる」旨の判決を取得し、競売により、強制的に、管理費の滞納者から区分所有権を剥奪する手法です。区分所有建物に剰余価値がなくても競売が可能である点に特色があります。この競売であれば、剰余価値がなくても、管理費の滞納者から区分所有権を剥奪し、競落人から、滞納管理費を回収することが可能です(法8条により、区分所有権を特定承継(贈与、売買(競売含む)により取得した者に対し、管理費等の請求が可能です)。
もっとも、法59条に基づく競売請求は、管理費の滞納者から区分所有権を剥奪し、区分所有関係から終局的に排除するものですので、①建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為があったこと、又はそのおそれがあること、②その行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しいこと、③他の方法によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であること、のいずれも満たす必要があります。この点、東京地判平17・5・13(判例タイムズ1218号311頁)は、管理費の滞納期間が約50か月の事案で、管理組合が滞納者に対し管理費等を請求する訴訟を起こし、管理組合の勝訴判決が言い渡されたのに、滞納者が任意の支払いをせず、さらに、管理組合が滞納者の預金を差し押さえる等強制執行に及んだものの、ほとんど成功しなかったこと、また、滞納者の区分所有建物に抵当権が設定されているため管理組合が先取特権に基づく競売を申し立てても剰余価値なしとして取り消される可能性が高いことなどを考慮し、前記①~③を認め、法59条に基づく競売請求を認めました。
弁護士 植木 博路