マンション管理費等,管理組合の財産を,管理組合の理事が横領した場合,当該理事に対する損害賠償請求ができるのは当然のこととして,管理組合の他の理事も損害賠償責任を負う可能性があります。
そして,管理会社も責任を問われる場合があります。
今回は,管理会社の責任を認めた裁判例をご紹介します。
東京地方裁判所平成17年9月15日判決です。
事案は,管理費,修繕積立金等が入金されていた銀行口座について,通帳は管理会社が保管し,届出印は理事長が保管していたのですが,理事長が銀行に通帳の紛失届を出して通帳の再発行を受け,もともと保管していた届出印を使用し,預金を引き出し,合計3500万円超を横領した(理事長個人の負債の返済等に費消)という事案です。管理会社においては,管理委託費を引き出そうとした際,管理会社の保管していた通帳が使用できなくなっており,この点につき理事長に問い合わせをしたにもかかわらず,理事長の弁解を信用し,理事長から再発行された通帳を預かったのみで,通帳は管理会社が保管し,届出印は理事長が保管するという従前の体制を継続させてしまいました。
判決は,「初めに理事長が預金通帳の紛失届を提出して再発行を受けたことを知った時点以降は,管理会社は善管注意義務に基づき,管理会社自身が保管する預金通帳が再発行されないよう配慮する義務が生じており,定期的に口座残高を確認し,紛失届が提出されていないか確認すべき義務を負っていたと認めるのが相当である」と述べ,管理組合の損害の一部(1590万円)につき,管理会社の義務違反を認めました。ただし,損害の公平な分担という観点から管理組合側の過失を考慮し,管理会社の責任は,1590万円の4割(636万円)としました。
判決が管理会社の責任を認めた理由は,以下のA~Cにあります。
A 下記①~③から,管理会社は理事長の不正を疑うべきである。
① 工事代金の支払方法として変則的な金銭の移動がなされたこと
② 大規模修繕の代金がいつ支払時期を迎えるかについては,相当以前から約定で決まっているはずであるのに突然まとまった資金が必要となったと理事長が不自然な弁解をしていること
③ 理事長が管理会社に連絡すればさして時間を要さずに預金通帳が理事長の下に届いたはずで急な支払であっても間に合わないことは考えにくいのに,全く管理会社に連絡せずに無断で虚偽の紛失届を提出して預金通帳の再発行を受けたこと,そのうえ管理会社が所持する預金通帳が使えなくなって理事長に問い合わせるまで理事長は何ら管理会社に再発行の事実を連絡していないこと
B 通帳再発行の際も管理会社は理事長が十分な説明をしていないのに単に預金通帳を再度預かるだけで済ませている。
C 管理組合と管理会社間で預金通帳と届出印を別々の者が保管する扱いとしたのは,理事長または管理会社の一方の意思のみで自由に管理組合の預金を払い戻して費消することを防止する趣旨であること,管理会社もこの趣旨であることは当然理解していた。
管理組合の理事が横領した場合,当該理事に対する損害賠償請求によって被害回復を図ることが事実上困難な場合があります(理事がお金を使い果たし,賠償するに十分な財産をもたないことも多いと考えられます)。そのため,管理会社の責任追及によって被害回復をめざす方が現実的な場合もあります。この点で,上記裁判例は,管理組合にとって有意義なものということができます。他方,管理会社においては,管理組合の理事による横領について責任を追及される場合があることに注意し,管理業務を行っていく必要があると思います。
弁護士 植木 博路