その1、その2と取引先の倒産に対する備えを説明してきました。
今回は、実際に取引先が倒産してしまった場合の上手な対処法を、倒産の中でも最も多い「破産」を例に御紹介します。なお、以下は取引先が株式会社であることを前提とします。
1 破産というのは、会社に残っている資産を現金化して、それを債権者に配当した上で、残った負債と会社を消滅させる手続きをいいます。
会社が破産する場合、まず、破産を受任した弁護士が会社の各債権者に対して、破産する旨の通知(受任通知といいます。)を送ります。
弁護士が裁判所に破産の申立てをした後、裁判所が、破産手続きを進めていく破産管財人(一般的には弁護士)を選任します。破産管財人は会社に残った資産を現金化して、ある程度のお金が集まったら、それを債権者に債権額に応じて平等に配当します(ただし、公租公課や労働者の賃金は優先されます。)。
そして、破産手続きは終結となります。
2 弁護士から、受任通知を受け取った後に、取引先が破産することを知りながら貸付金の返済を受けたり、売掛金を支払ってもらったりすると、後に破産管財人から返金するよう請求されることがあります。破産手続き上、債権者は平等に扱われるため、一部の債権者だけが抜け駆け的に債権回収を図ることは許されないのです。
3 しかし、例外的に優先される債権者もいます。
それは、抵当権、質権、譲渡担保権、動産売買先取特権といった担保権を持っている債権者です。
これらの担保権は「別除権」と呼ばれ、破産手続きに関係なく権利行使ができるので、結果的に他の債権者に優先して債権を回収することができます。
4 そして、取引先が破産した場合に、強力な力を発揮するのが動産売買先取特権です。
動産売買先取特権とは、動産(土地、建物以外の物。商品をイメージすると分かりやすいと思います。)の売主が、売却した動産を差押えて競売したり、動産を購入した第三者から代金を直接払ってもらったりして、自分の売掛金を回収することができる担保権です。上記のとおり、動産売買先取特権も別除権ですので、破産手続きに関係なく権利行使ができます。
取引先に商品をいったん納入すれば、代金を受け取っていなくても、商品の所有権が取引先に移転しますので、勝手に処分すると窃盗罪になります。しかしながら、動産売買先取特権に基づいて法定の手続きをふめば、その心配はありません。また、抵当権のように事前に取引先と設定契約を締結しておく必要はなく、動産を売ったという事実を証明することができれば権利を行使することができます。一度は検討してみる価値がある方法です。
5 上記のような担保権がない場合は、配当によってしか債権を回収することはできません。しかしながら、配当率が数%ということも珍しくはありません。
そこで、破産管財人に積極的に協力をして、配当を増やす努力をしましょう。自分の知っている情報を提供したり、在庫の買取りに協力したりすれば、会社の財産が増加して、結果的に自分への配当も増えることになります。
また、会社役員が任務を怠ったことで破産を招いたような場合は、破産管財人は、その役員に対して損害賠償を請求して、その賠償金を債権者への配当に充てることができます。会社役員の不正行為を知っていれば、破産管財人に情報提供してもいいかもしません。
6 最後に、取引先が破産して債権が回収不能になった場合は、貸倒処理も忘れないようにしましょう。債権のうち配当を受けられなかった分については、税法上の損金として処理をすることができます。
以 上