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コラム

所有者不明土地の解消 ②相続土地国庫帰属法

投稿日

2023.01.10

投稿者

山口和則

カテゴリー

その他の民事・家事事件

不動産関連

1 前回の私のコラムでは、所有者不明土地が発生するのを事前に防止するための対策の1つである相続登記の義務化について説明しました。

今回は、もう1つの事前の対策である、相続土地国庫帰属法について説明したいと思います。

2 田舎に住んでいる父から兄弟で山林を相続したけど、自分では山林を利用して何かをする予定もないし、売ろうと思っても買い手もつかない。管理も面倒なのでそのまま何十年もほったらかしにしている間に、兄弟のうち何人かが亡くなり、今はその子供たちが相続しているはずだが、子供たちがどこに住んでいるかもわからず、連絡も取れない。

このように、土地を相続したものの使い道もなく、手放したいけれど引き取り手もない土地が所有者不明土地の予備軍になっているといわれています。

そこで、所有者不明土地の予備軍の発生を事前に防止するため新たに設けられたのが、相続土地国庫帰属制度です。

相続土地国庫帰属制度というのは、分かりやすく言うと、相続した土地を手放し、国に土地の所有権を帰属させることができるという制度です。

3 土地所有権は放棄できないのか

⑴ 動産の所有権放棄について

所有者は、所有物を自由に使用・収益・処分できるとされています(民法206条)。なので、例えば自分が所有している本をごみとして捨てる、燃やすなどして自由に所有権を放棄することができます。

このように、動産については所有権を自由に放棄できることに問題ありません。

⑵ 建物所有権の放棄について

また、不動産でも、建物の所有権については、自分が所有する建物を取り壊すことにより放棄することが可能です。

⑶ 土地所有権の放棄について

では、同じように土地の所有権も自由に放棄することができるのでしょうか。

まず、建物と異なり、土地については、取り壊すなどして存在そのものを消してしまうことは不可能です。したがって、物理的に存在を消してしまうという方法により所有権を放棄することは不可能です。

では、たとえば土地の所有権放棄を宣言するなどして土地所有権を放棄できるかというと、民法は、所有者のない不動産は国庫に帰属する(民法239条2項)と規定するにとどまり、そもそも土地所有権の放棄が認められるのか否かははっきりしません。

また、学説上も、「所有権を放棄できるかについては、わが民法には規定がなく、はつきりしない」(注釈民法⑺ 273ページ)とされており、やはり土地所有権を放棄できるのか、できないのかははっきりしません。

⑷ 土地所有権放棄について考慮すべき事項

土地の所有者は、固定資産税の納税義務を負い、土地の管理コストを負担する立場にあります。無制限に土地所有権放棄を認めると、安易に納税義務を免れることができ、ひいては安易に土地の管理コストを国に転嫁することになりかねません。

また、動産の所有者と異なり、土地の所有者は、相隣関係や不法行為において一定の義務や責任を負います(民法216条、709条等)。土地所有権の放棄を無制限に認めると、例えば土地に有害な廃棄物質を捨てるだけ捨てておいて、いざとなれば土地所有権を放棄すればよいというモラルハザードが横行するおそれもあります。

4 相続土地国庫帰属制度を利用するための条件

相続土地国家帰属法では、上記の点について考慮した上で、相続した土地を国家に帰属させることができる一定の条件を定めています。

⑴ 申請できる人

申請できるのは、相続や遺贈によって土地の所有権を取得した相続人です。

売買等によって任意に土地を取得した人や法人は申請できません。

土地が共有地である場合には、相続や遺贈によって持分を取得した相続人を含む共有者全員で申請する必要があります。

⑵ 申請できない土地

次のような、管理をするにあたって過大な費用や労力が必要となる土地については、申請の対象外とされています。

・建物の存する土地

・担保権又は使用及び収益を目的とする権利が設定されている土地

・通路その他の他人による使用が予定されている土地

・土壌汚染対策法2条1項に規定する特定有害物質により汚染されている土地

・境界が明らかでない土地、その他の所有権の存否、帰属又は範囲について争いがある土地

5 申請後の手続

申請後、法務局による書面審査や実地調査が行われます。

申請時には、申請手数料を納付する必要があります。

申請が承認された場合、申請者は、負担金の額の通知を受けてから30日以内に、政令で定める負担金を納付しなければなりません。

申請にかかる土地の所有権は、負担金が納付された時に国庫に帰属します。他方、負担金の額が通知されてから30日以内に負担金が納付されなければ、承認は効力を失います。

この負担金の額については、管理に要する10年分の標準的な費用の額を考慮して算定するものとされています。

政令で定められている具体的金額は、原則20万円とし、宅地・農地・森林については面積に応じて負担金の額が変わるものとされています。

 

【参考資料】

・民法・不動産登記法部会資料(https://www. moj.go.jp/content/001298438.pdf

所有者不明土地ガイドブック~迷子の土地を出さないために!~(令和4年3月 国土交通省)

・民法等一部改正法・相続土地国庫帰属法の概要(令和4年6月 法務省民事局)

・なくそう、所有者不明土地!所有者不明土地の解消に向けて、不動産に関するルールが大きく変わります! 政府広報オンライン (https://www.gov-online.go.jp/useful/article/202203/2.html)