「民事執行法及び国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律の一部を改正する法律」が令和元年5月10日に成立し、令和2年4月1日に施行されました。
今回は、この改正のうち、①財産開示手続の改正と②第三者からの情報取得手続の新設について簡単に説明したいと思います。
1 財産開示手続の改正
⑴ 財産開示手続の申立権者の拡大
財産開示手続とは、債務者を裁判所に呼び出し、自らの財産について陳述させるという手続です。
改正前は、仮執行宣言付き判決や執行認諾文言付公正証書等を有する債権者は、財産開示手続の申立権者から除外されていました。しかし、改正法では、このような除外規定で廃止され、強制執行に必要な債務名義を有している者であれば、誰でも申立てができるようになりました。
⑵ 債務者に対する罰則の強化
改正前は、財産開示手続において債務者が出頭しなかったり、虚偽の陳述をしたりした場合、債務者に30万円以下の過料を科すことができるのみでした。改正法では、この罰則が6か月以下の懲役又は50万円の罰金という刑事罰に強化されています(民事執行法213条1項5号6号)。罰則が強化されたことにより、債務者の不出頭や虚偽の説明を防止し、手続の実効性の向上が期待されます。
2 第三者からの情報取得手続の新設
今までは、民事執行法上、債務者以外の第三者から債務者の情報を取得できる手続はありませんでした。しかし、債務者の財産についての情報は、銀行等をはじめ第三者も有しており、これらの第三者から情報を取得することができれば、強制執行の実効性を高めることができます。
そこで、改正法では、登記所、金融機関、債務者の勤務先等、に対し、債務者の情報の開示を命じることができるようになりました(情報提供命令)。この改正により、債務者の不動産に係る情報(民事執行法205条)、債務者の預貯金債権等に係る情報(同法207条)、債務者の給与債権に係る情報(同法206条)を債権者は第三者から取得することができるようになりました。
なお、債務者の不動産に係る情報、債務者の給与債権に係る情報についての情報提供を命令するためには、財産開示手続を先行させる必要があります(民事執行法205条2項、民事執行法206条2項)。しかし、債務者の預貯金債権等に係る情報についての情報提供を命令については、財産開示手続を先行する必要はありません。よって、債権者は、債務者に気づかれることなく、債務者の預貯金債権等に係る情報を取得することができます。
参考文献
法務省民事局「民事執行法及び国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律の一部を改正する法律の概要」http://www.moj.go.jp/content/001335368.pdf (最終閲覧2021年1月12日)
法務省「民事執行法とハーグ条約実施法が改正されました。」http://www.moj.go.jp/content/001312362.pdf (最終閲覧2021年1月12日)