今回は民事裁判の尋問における異議について説明します。
どちらかといえば、若手弁護士を対象とした内容となっていますが、自らが当事者となって民事裁判を提起した方にも参考となると思います。
民事裁判の尋問において、相手方代理人より、質問に対して異議の申立てがなされることがあります。主尋問に対して異議を出すことも可能ですが、実務では反対尋問に対する異議が圧倒的に多いと思われます。
異議と一口に言っても民事訴訟法及び民事訴訟規則では様々な種類が規定されています。
尋問中に発現する異議としては、大きくわけて、裁判長の裁判に対する異議(民事訴訟規則117条第1項)と、裁判長に対して民事訴訟規則115条第3項に規定された相手方当事者の質問を制限するよう職権発動を促す異議の2種類があります。
裁判長の裁判に対する異議としては、裁判長が当事者の再反対尋問以降の尋問を許可した場合、裁判長が証人に対する尋問の順序あるいは裁判長が変更して決めた順序以外のタイミングで自ら尋問したり当事者に尋問を許したりした場合、裁判長が主尋問・反対尋問・再主尋問それぞれの質問の範囲を超える質問について相当でないとして制限した場合、裁判長がしてはならない質問について制限した場合などがあります。
裁判長の裁判に対して異議を出した場合、裁判所はその場で直ちに決定を下すことになります。ただし、実務上、上記異議を出す例はそれほど多くありません。また、裁判長自身が必要だという認識で行っているわけですので、異議を出したとしても、決定で覆ることはそれほど多くないと思われます。
次に、裁判長に対する相手方当事者の質問を制限するよう職権発動を促す異議ですが、実務で出される異議のほとんどはこちらだと思われます。
実務では、こちらの異議も「異議」という用語を用いていますが、前の異議のように法律上の異議として当事者に認められているものではなく、あくまで裁判長に職権発動を促すべきものに過ぎません。
したがって、異議はあくまで裁判長に出すべきものです。実務では、直接、相手方代理人に向かって、異議と叫ぶ代理人をときどき見かけますが、異議の制度を正確に理解していないものと思われます。
裁判長が当事者の質問を制限する場合としては、質問の内容が主尋問(立証事項に関連するもの)、反対尋問(主尋問にあらわれたもの)、再主尋問(反対尋問にあらわれたもの)のそれぞれの範囲を超える場合(規則114条第1項)、してはならない質問(規則115条第2項各号)として①証人を侮辱し、又は困惑させる質問②誘導質問 ③既にした質問と重複する質問④争点に関係のない質問⑤意見の陳述を求める質問⑥証人が直接経験しなかった事実についての陳述を求める質問に該当する場合があります。
その他、個別具体的でない質問や誤導尋問についても、相当でないとして異議を出すこともできるとされています。
また、陳述書に記載されていない事項について質問がなされた場合に、不意打ちだとして、相手方当事者から異議が申し立てられることがあります。民事訴訟規則で定められている異議は、質問に対する異議であり回答に対する異議ではないことや、陳述書の事前開示機能は重視されるべきだとしても、陳述書に記載されていない事項を尋問において回答してはいけないと明示的に規定されていないことから、法的な根拠は明確でないところがありますが、このような異議を認める裁判官も実務では一定数いるようです。