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コラム

著作権法第30条の2の改正について

投稿日

2020.10.30

投稿者

芳賀由紀子

カテゴリー

IT法務

知的財産・営業秘密

2020年6月5日,「著作権法及びプログラムの著作物に係る登録の特例に関する法律の一部を改正する法律」が可決,成立しました。

今回の改正では,著作物等を巡る近時の社会状況の変化等に適切に対応するため,さまざまな改正が盛り込まれましたが[1],今回は改正事項のうち,写り込みに係る権利制限規定の対象範囲の拡大(2020年10月1日から施行)について説明したいと思います。

 

1.そもそも,写り込みとは?

みなさんが,写真撮影したり,ビデオを撮影したりする際に,意図せずに,背景に著作物であるキャラクターなどが背景に小さく写り込んだりすることがあると思います。

このような場合に,著作物であるキャラクターが写り込んだ写真やビデオを複製することは,著作権侵害になるのでしょうか?

 

現行の著作権法第30条の2第1項は,写真の撮影等の方法によって著作物を創作するにあたって,当該著作物(写真等著作物)に係る撮影等の対象とする事物等から分離することが困難であるため付随して対象となる(写り込む)事物等に係る他の著作物については,著作物の著作権者の権利を不当に侵害することになる場合を除き,当該創作に伴って複製又は翻案することは侵害行為に当たらないとしています。

 

つまり,意図せずに,著作物であるキャラクターなどが背景に小さく写り込んでしまったような場合には,その撮影した写真やビデオを複製しても,原則として,著作権侵害には当たらないということになります。

もちろん,著作権侵害にあたるかどうかは,それぞれの事案について,個別具体的な事情をきちんと確かめたうえで判断する必要があります。

 

ちなみに,現行の著作権法第30条の2の対象となる利用行為について,文化庁がHPで見解を示しているので参考にしてください。

 

https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei/utsurikomi.html

2.著作権法第30条の2の改正について

では,今回,どのような点が改正されたのでしょうか?

 

ポイント①

現行法では,対象となる行為が,写真の撮影,録音,録画に限定されていましたが,スマートフォンやタブレット端末等の利用の増加に伴う社会実態の変化に対応し,対象となる行為を複製や伝達行為全般(例:スクリーンショット,生配信,CG化)に拡大しました。

これによって,スクリーンショットやインターネット上での生配信,模写,街の風景のCG化など多様な行為に伴う写り込みも著作権法第30条の2の権利制限規定の対象となります。

 

ポイント②

固定カメラでの撮影など,創作性が認められない行為を行う場面における写り込みも著作権法第30条の2の権利制限規定の対象となりました。

 

ポイント③

現行の著作権法では,写り込んでしまう著作物が分離することが困難であるという要件がありましたが,改正法ではこの点が緩和され,例えば,子供にぬいぐるみを抱かせて撮影する場合など,メインの被写体に付随する著作物であれば,分離が困難でないものも著作権法第30条の2の権利制限規定の対象となることになりました。

 

3.まとめ

スマートフォンやタブレット端末等の急速な普及や動画投稿・配信プラットフォームの発達等がめざましく,そのような社会実態の変化に対応して,写り込みに係る権利制限規定の対象範囲を拡大する方向で改正がなされました。

スマートフォンやタブレット端末等を利用して,日常生活等において一般的に行われる行為に伴う写り込みが幅広く認められることとなり,利用がしやすくなったといえます。

もっとも,著作権が関係する場合には,その権利を侵害していないかどうか,様々な角度から検証する必要があります。

著作権が関係する場面は多々あると思いますが,最終的には,個別具体の事例に応じて考える必要がありますので,不安があれば,いつでも弁護士にご相談ください。

以上

[1] 今回の改正では,①インターネット上の海賊版対策の強化(ⅰリーチサイト対策,ⅱ侵害コンテンツのダウンロード違法化),②写り込みに係る権利制限規定の対象範囲の拡大,③行政手続に係る権利制限規定の整備(地理的表示法・種苗法関係),④著作物を利用する権利に関する対抗制度の導入,⑤著作権侵害訴訟における証拠収集手続の強化,⑥アクセスコントロールに関する保護の強化,⓻プログラムの著作物に係る登録制度の整備(プログラム登録特例法)などが盛り込まれています。