私は、弁護士ドットコムというサイトで、法律相談の回答をしています。
今回は、回答をしている際に気になることをお話ししようと思います。
「・・・こんな酷いことをされました。この相手方を○○罪として訴えられますか」
こういうご相談は多いです。
おそらく、ご本人のお気持ちとしては、被害申告をしたいという意味で使われているのだと思いますが、私としては違和感を覚えます。
刑事事件は、検察官が裁判所に「起訴」することで、その被告人を処罰するかどうか、裁判所が判断することになります。
現在の日本において、この「起訴」は、検察官だけしか許されておらず(刑事訴訟法247条)、被害者であろうと弁護士であろうと、することはできません。
このことを、「起訴独占主義」といいます。全国的に一体をなす検察官が訴追機関となることによって、起訴・不起訴の判断が公正かつ統一的なものになるという長所があるといわれています。
刑事訴訟法第二百四十七条 公訴は、検察官がこれを行う。
このため、「○○罪で訴えられますか?」という質問に対する正式な回答、「起訴することは検察官しかできないので、あなたには訴えられません。」という回答になってしまいます。
もちろん、相談者が、相手方が罪に問われるのかを聞いているのは分かっていますので、こういう意地悪な回答はしません。
ただ、この質問が、「警察はこの相手方を逮捕してくれますか?」「検察官はこの相手方を○○罪で起訴してくれますか?」「この相手方は処罰されますか?」という内容であれば、この質問への回答は、非常に難しいものとなります。
というのも、警察などへ被害申告をしても、必ずしも逮捕等してくれるわけではありません。被害相談を一度でもされたことがある方なら分かると思いますが、警察は非常に慎重に話を聞きますし、一回の聴取だけで「じゃあ捕まえましょう」とはなりません。
事案の重大性や証拠の有無等を詳細に検討して、さらに捜査した上で逮捕するかどうか、起訴するかどうか、処罰すべきかどうかなどが検討されることになるからです。
ですので、先の質問への回答は、一言で言えば、「個別性が非常に高いため、回答が難しい」ということになります。
もちろん、事案によって逮捕されやすいとか、起訴されやすいなどの傾向はありますが、実際に証拠などを見ていない状況では、「可能性がある」程度のことしか答えられないことが多いのです。
警察が動いてくれそうにないときには、告訴という手続きがあります。告訴とは、犯罪の被害者等が犯人の処罰を求めて犯罪事実の申告を行うことです(刑事訴訟法230条)。告訴をすると、捜査機関には捜査義務が生じます(刑事訴訟法242条、犯罪捜査規範63条、刑事訴訟法189条2項等)。
告訴は個人でも可能なのですが、警察がいろいろと理由を付けて告訴を受理を回避するようなことは、現在も多くおこなわれていますので、弁護士に依頼された方が良いことは多いです。
弁護士に相談すれば、民事での損害賠償についても、検討することができます。
刑事訴訟法第二百三十条 犯罪により害を被つた者は、告訴をすることができる。
当法人でも、被害者からの依頼対応や告訴の対応はしておりますので、もし刑事事件の被害者となるようなことに巻き込まれた場合には、お気軽にご相談ください。