弁護士の関です。
今回はクレプトマニア(窃盗症や窃盗依存症ともいいます。以下では、「クレプトマニア」に統一します。)に対する弁護士の関わり方について述べたいと思います。
私はこれまでのコラムで、クレプトマニアは疾患であり、罹患しているか否かも専門的知識を有した医師でなければ診断できず、さらに専門的医療機関ないし医師による治療を継続的に受けなければ、症状が改善することも基本的にはあり得ないと繰り返し述べて来ました。
しかしながら、クレプトマニアにとって何よりも必要なことが専門的治療であれば、医師ではない弁護士が出る幕などそもそもないように思えます。では、私のような医学の専門的知識を有しない弁護士がクレプトマニアの方に関わる意義はどこにあるのでしょうか。
それは、万引が窃盗という犯罪に該当する行為であり、さらには残念ながら大部分のクレプトマニアの方は逮捕や起訴されて初めて治療の必要性を(真摯に)自覚するためです。以前ご紹介した竹村道夫医師も、ご自身の論文の中で「起訴前捜査中、あるいは起訴後の略式命令待ち、裁判進行中など、司法判断待ちの期間は、最適の治療チャンスである。この機を逃さず、治療につなぐべきである。これには、常習窃盗治療に詳しい弁護士との協力が必要である」(窃盗症の概念と治療・1184~1185頁)と述べられています。
また、現実的な問題としても、(偶然、担当された国選弁護人の先生から指摘を受ける場合も多いようですが)自らがクレプトマニアに罹患している可能性をようやく自覚したとしても、裁判中であるため拘置所に勾留されていたのでは、専門機関等を受診すること自体が極めて困難です。そのような場合には、弁護人において必要性等を説明して裁判所へ保釈請求を行う必要があります。
さらに、折角、専門機関での入院治療を継続的に受けられるようになっても、執行猶予中の再犯である等の理由で実刑判決(=刑事施設へ収容される)を受けたのでは、結局治療を長期間中断せざるを得ません。弁護人が尽力して何とか再度の執行猶予判決を得ることを目指さなければなりません。
万引が犯罪である以上、多くのクレプトマニアの方は、自身の刑事裁判と並行しながら治療を継続する必要があります。その現実から逃れることはできません。しかしながら、そうであるからこそ、折角機会を得た治療に十分集中しその効果を上げるためにも、弁護士が積極的にこの問題に関わって行く必要があるのです。