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コラム

クレプトマニア⑥

投稿日

2019.11.22

投稿者

関 五行

カテゴリー

刑事

弁護士の関です。

今回はこれまでみてきたクレプトマニア(窃盗症や窃盗依存症ともいいます。以下では、「クレプトマニア」に統一します。)に対する治療の効果について述べたいと思います。

このコラムを読まれている方には、万引きを繰り返す人間に専門治療をしたからと言って、万引きをしないようになるのか疑問を抱かれる方もいると思います。 

まず、大前提として述べておきたいのが、この疾病は治療したからと言ってそう簡単に治るものではないということです。

これまで何度かご紹介した特定医療法人群馬会赤城高原ホスピタル(以下、「赤城高原ホスピタル」といいます。)の竹村道夫医師も、クレプトマニアについて「寛解はあるが完治はない」といった趣旨を述べられています。実際、私が何度か赤城高原ホスピタルを訪問した際にお会いした患者さんは、(治療を長期に行っている方ほど)口を揃えて「盗りたいという気持ちはまだなくならない」と言われます。逆に(あくまで私の感覚ですが)治療を開始したばかりの方ほど「もう二度と盗ろうとも思いません」と言われます。

いずれの方も嘘を吐いているわけではなく、その時に本当に考えていることだとは思いますし、私は医療の専門家ではありませんが、後者のことを言われると、大変残念ながらまだ先は長いなと感じます。

私が、素人的にみてもある程度治療の効果が出ている(と思われる)複数の患者さんから聞いて、なるほどと思ったのは、「盗りたいという気持ちはまだなくならないんだけど、自分が今盗りたいと思っていると分かるようになった」という言葉です。これらの患者さんが、自分が今盗りたいと思っていると分かってどう対処するのかと言うと、すぐにお店から出たり、わざと人がたくさんいるところに行ったり、友人に来てもらったり、絶対に自宅から外出しないようにするのだそうです。私はこの対応こそが治療の効果なのだと考えています。

勿論、クレプトマニアの治療は甘いものではありませんから、上記のような考えを持つことができるようになった患者さんでも、ほんのちょっとしたことで再度万引を犯してしまいます(「スリップ」と言うそうです)。私はその度にこの病気の怖さ、治療の難しさを改めて痛感します。

クレプトマニアは専門治療を受けたからと言って魔法のように治ることありません。それでも、治療をしなければ症状に対処することすらできないのです。
以上