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コラム

クレプトマニア⑦

投稿日

2020.04.01

投稿者

関 五行

カテゴリー

刑事

弁護士の関です。

 

本コラムでクレプトマニア(窃盗症や窃盗依存症ともいいます。以下では、「クレプトマニア」に統一します。)について述べさせていただくようになって以降、特に同業の弁護士の方から質問を受ける機会が格段に増えました(大変有難いことです)。

弁護士の方からいただく質問は、実際の刑事弁護、刑事裁判ではどのような弁護活動を行っているのか、というものが大部分です。やはり皆さん実際にクレプトマニア、もしくはその兆候がある被疑者・被告人の弁護で苦心した経験がおありなのでしょう。

上記質問に対する私の回答は至ってシンプルで、「ありのままを裁判所と検察官に伝えます」というものです。そうしますと大体の先生から、ありのままって?と聞き返されますので、もう少し具体的に、(勿論専門的知識を有した医師の診断が大前提ですが)この被疑者・被告人はクレプトマニアに罹患しているから、長期かつ継続的な専門治療を受けなければ症状が改善しない、その場合には短期間での再犯可能性が極めて高いと裁判所等に伝えると再度説明します。勿論、可能な限り被害者への真摯な謝罪や被害弁償を行うことは当然の前提です。

少なくとも私の場合、余程の場合を除いて責任能力等の無罪を争うことはありませんし、クレプトマニアの場合、被疑事実ないし公訴事実についてもそれほど問題にならないことの方が多いです(本人も覚えていないほど複数回の万引を繰り返している場合もあり、その場合はそもそも事実の確認すら困難です)。

したがって、クレプトマニアの事案において、やはり重要となるのは被害者への謝罪や被害弁償、今後の再犯の有無であり、特に再犯可能性を減少させるためには専門機関で治療を受けることが必要不可欠です。その点を裁判官や検察官に強く訴えます。クレプトマニアに関する専門医の意見書や文献や論文、その他資料も証拠として提出いたしますが、あくまでも今後の治療の必要性を立証するためのものです。

しかしながら、特に執行猶予中の再犯の場合は、判決で再度の執行猶予が得られない場合の方が多く(端的に私の力量不足としか言いようがありません)、刑事施設へ収容される被告人も少なくありません。

そういう状況になった被告人は、(治療の必要性をきちんと認識している人ほど)こちらも見ているのが辛いくらい落胆しますが、犯行を行った自らの責任と気持ちの整理をつけ、刑事施設へ収容され釈放された後に、再度医療機関と繋がるかはその人次第としか言いようがありません。

治療に向けたスイッチがしっかり入っている人は、裁判や刑罰とは無関係に周囲から言われなくとも自ら進んで医療機関や自助グループ等に接触します。

そしてそれを見るたびに、結局家族や弁護士はせいぜい環境を整えることしかできず、各個人が、自分がクレプトマニアに罹患していて、今の状況から抜け出すためには辛い治療を継続して受けなければならないと認識、覚悟するかどうかが重要なのだと痛感します。

クレプトマニアは、弁護士にとっても非常に難しい事案です。例えば、東京等には私よりはるかに詳しく経験が豊富な先生もいらっしゃいますので、私もそういった先生の弁護活動を研究するなどしていますが、それでも日々迷い悩んでいるのが実際のところです。私に質問いただく多くの先生もそうだと思います。

弁護士にとってもそうなのですがから、例えば本人のご家族等からすれば、一体どうなっているのか、何が何だか分からないというのが正直なところでしょう。一人で思い悩んだり、調べるにも限界があります。

したがいまして、自分や周囲の方に少しでもクレプトマニアの兆候がある場合には、医師等の専門家に相談されることを改めて強くお勧めいたします。

以上