弁護士の関です。
私が特にクレプトマニア(窃盗症や窃盗依存症ともいいます。以下では、「クレプトマニア」に統一します。)のご家族からよく受ける質問として、クレプトマニアに対してどのような治療が有効であるのか、というものがあります。とても難しい質問です。
私は医療の専門家ではありませんので、基本的には専門医療機関で行われている治療等をそのままご説明するだけですが、さらに、その治療がクレプトマニアにどういった効果を与えるのかと聞かれると、正直説明に困ってしまいます。
あくまで私の知る限りですが、クレプトマニアに対する治療は、いわゆる一般的な病気に対する治療とは異なり、投薬や手術等を行うわけではありません。診断のために検査を行うことはありますが、CTやMRIといった画像診断をするわけでもありません。例えば、私がよく知る赤城高原ホスピタルで治療の中心となっているのグループミーティング等です。
専門家でもない私には、何故こういった治療がクレプトマニアに有効なのか、どういった原理なのかと質問されても、結果的にそうなっている、医師に質問されて下さいとお願いする程度しかできません(実際、文献や医学論文でもこの辺りのことを詳細に述べているものを見つけられていません)。
しかし、最近この点に関して非常に有用な経験をすることができたのです。
先日、私が担当している方が、裁判所から保釈を認めていただいて、赤城高原ホスピタルに入院することになりました。保釈を認めてもらうまでは大変ですが、このこと自体はよくあることです。しかしながら、このケースで少し異なったのは、この保釈された方(以降は便宜上仮名を用いることとし、Aさんとします)が入院初日から自らへの治療の一環として非常に詳細な日記を付けていたことです。
実は入院する方が日記を付けること自体も珍しいことではありません。私も裁判での被告人質問は時間が短いので、証拠として提出するために毎日日記を付けるよう、よくお願いします。
Aさんの場合、少し違ったのは、Aさん極めて詳細に日記を付ける方だったということと、ご自分の感情を含めて客観的に観察できる方だったということです。
Aさんは、毎日詳細な日記を付け、それを毎週私に送って来ました。そこには最初治療の効果に懐疑的ですらあったAさんが、グループミーティング等の毎日のカリキュラムに参加し、他のクレプトマニアの方の話を聞いていくことで、少しずつ治療に前向きになっている経過が詳細かつ克明に記されていました。
私はいつしかAさんが毎週送ってくる日記を心待ちにするようになりました。自分ではこれまである程度のクレプトマニアの方の弁護を行ってきたと自惚れていたのですが、考えてみれば、私はクレプトマニア治療の入院生活を実際に体験したことはなく、他の患者の方と腹を割って話したこともありません。そんな私からすれば、Aさんの日記は毎回新鮮な驚きを含んだものでした。
特筆すべきはやはりAさん自身の考え方、モノの見方で、何よりも自分自身に懐疑的なかたでした。おそらくもう何度も失敗して誰よりも自分自身に失望し、期待していなかったのだと思います。
Aさんはほんの少しでも治療の効果のようなものを感じる度に、違う、自分に限ってはそんな筈はないと否定し、自分が本当の治療の効果を得られる日が来るのだろうかと自問自答を繰り返しました。そのストイックさは傍から見るともどかしいほどでした。
しかしそんなAさんも、あまりここでは詳細に書けませんが、最終的にはグループミーティングの効果を確信し、それを正確に理解するだけでなくAさんのように治療に懐疑的な患者さんから相談を受けるまでになりました。合わせて日々のカリキュラムをこなしながらもきちんとご自身でも勉強され、しっかり質問に回答できるようになっています。
勿論、治療の効果には個人差があるでしょう。Aさんに起きたことが全ての人に起こるなどあり得ないことです。しかしそれでも、私にとってはクレプトマニアに対する治療の効果、その経緯をはっきりと確認でき、とても貴重な経験でした。
文量の関係で、ここではその詳細まで述べることができないのですが、今後同じようなご質問をいただいた時は、是非とも一つの例としてじっくりお話ししようと考えています。