弁護士の関です。
今回は私がクレプトマニア(窃盗症や窃盗依存症ともいいます。以下では、「クレプトマニア」に統一します。)の問題に関わることになったきっかけについてお話ししたいと思います。。
当たり前ですが、私は元々クレプトマニアの方の弁護をしたくて弁護士になったわけではありません。
私が初めてクレプトマニアの方の事件を担当したのは弁護士になって二年目の国選弁護事件でした。
その被告人の方はかなり高齢の男性であり、今考えると必ずしも典型的なクレプトマニアのケースではなかったのですが、これまで少額の万引行為を繰り返し、ついに起訴されてしまった状況でした。
私としては、これまで担当した窃盗事件と同じように、弁護活動として刑事記録を読み込み、本人と面談した上で被害弁償、示談などを行いました。もっとも、すっきりしないところとして、本人に何度聞いても万引行為を繰り返す理由についてはっきり説明できないことでした。
一流企業を定年退職されて、傍から見れば、悠々自適の生活を送っている方ですので、経済的な理由などではありません(検察から開示された調書では、お決まりのように経済的な理由が動機とされていました)。
私はこの点について疑念を持ったものの、初めての起訴であり、本人が深く反省していることもよく分かりましたので、深く掘り下げることもしないまま一通りの弁護活動を行い、無事執行猶予付きの判決をいただきました。本人もご家族もとても喜ばれていたことを覚えています。
今となっては、この時私がもう少しクレプトマニアの知識を持っており、少なくとも違和感を信じて医療機関等への確認等をしていれば、これからお話しする再犯は起きなかったかも知れず、深く反省しています。
治療していないから当たり前ですが、一年も経たないうちにその方は再度万引をしました。
ご家族から連絡を受け、私選弁護のご依頼を受けた私はすぐに本人と面談しましたが、以前に輪をかけて万引の理由がはっきりしません。本人自身も自分が怖いと言われる状況でした。
私は流石にこれは尋常な事態ではないと気付き、自分で色々調べたところ、ようやくにしてクレプトマニアの存在に行き当たりました。
ご本人やご家族に説明したところ、まさに思い当たる節があるとのことでしたので、さらに調べたところ、このコラムでも度々登場する赤城高原ホスピタルの竹村道夫医師の存在を知りました。
幸い、本人には保釈が認められましたので、私は竹村先生に初めて連絡をした上で、先生が経営されている東京のクリニックを予約して、本人と一緒に診察を受けました。
その診察で受けた衝撃は今でも忘れることはできません。
竹村先生から、これまでどのくらい万引をしたのかとの質問に対し、本人は最初はこれまで通りの回答をしました。
しかし、竹村先生からのもっとやっているでしょうとの質問に、これまでの供述よりより遥かに多い回数を答えたのです。もう何十年にも渡ってということでした。
その後、本人はすぐさま群馬県にある赤城高原ホスピタルに入院となり、ようやくにして専門治療を受けられ、判決でも無事執行猶予をいただくことができました。
私はその後も竹村先生からクレプトマニアの論文を提供いただき、赤城高原ホスピタルを見学し、患者さんのお話を聞く機会をいただくことができました。
そうして今も変わらずクレプトマニアの事件を担当しています。
言うまでもなく、私より詳しい弁護士は全国に星の数ほどいますので、日々勉強をしています。そんな中で自分がクレプトマニアの問題に関わることになったきっかけについては忘れないようにしたいと思っています。
以上