今回は,コーポレートガバナンス・コード(CGコード)について触れたいと思います。CGコードは,東京証券取引所が平成27年5月に公表したもので,コーポレートガバナンス・コードの意義を,会社が株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で,透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組みであるとし,会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を図ることに主眼を置いています。その内容は,5つの基本原則と,それに付随する30の原則及び38の補充原則から構成されています。このうち,基本原則は,株主の権利・平等性の確保,株主以外のステークホルダーとの適切な協働,適切な情報開示と透明性の確保,取締役会等の責務,株主との対話という内容となっています。そこでは,企業は,少数株主も含めた全ての株主の権利を重視すると共に,企業を取り巻くステークホルダーにも配慮して,実効的な取締役会での議論を行い,企業に関する情報を適切に開示したうえで,株主との対話を通じて,企業価値の向上と持続的成長を目指すという姿勢が求められています。
コードの重要な特徴は,プリンシプルベース・アプローチとコンプライ・オア・エクスプレイン方式を採用していることです。まず,プリンシプルベース・アプローチは,抽象的な原則のみを示し,その原則を踏まえてどのように行動すべきかについては,当事者の合理的な判断に委ねるというものです。これは,それぞれの企業がCGコードの精神に沿って適切に解釈し,株主等のステークホルダーに対する説明責任を果たすことを意味します。CGコードがプリンシプルベース・アプローチを採用した理由は,企業にとって望ましいガバナンスのあり方は,企業の業種,規模,事業特性,機関設計,企業を取り巻く環境によって異なるため,それぞれの企業が自社の特性に応じて適切な行動をするように求めることにあります。一方,コンプライ・オア・エクスプレイン・ルールとは,原則を実施するか,実施しない場合にはその理由の説明を求める規律をいいます。CGコードがコンプライ・オア・エクスプレイン・ルールが採用した理由は,規律の柔軟性と効果的な企業統治の相反する要素を両立させる点にあります。すなわち,望ましいコーポレートガバナンスのあり方は,企業により様々であり,特定の統治の構造を法律により強制することは望ましくないということを強調すれば,特定の規範を実施するか否かは,企業が選択することができるようにすることで規制の柔軟性を確保できます。もっとも,その規範の実施を企業の全くの自由に委ねるとすれば,経営陣が自らを効果的に監督できる統治構造を採用することを期待し難いため,効果的な統治構造を採用が期待できません。そこで,その規範を実施しない場合には,企業にその理由を公に説明させて株式市場の評価を受けることで,間接的にではあるものの,効果的と考えられる統治の形態を会社が採用するように誘導しました。
このように,CGコードは,個々の企業の特性と規範の遵守を求めています。具体的な内容については,次回に触れたいと思います。