本年3月10日,経済産業省は「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針」(CGSガイドライン)を策定しました。ガバナンスとは,一般的に企業統治という意味で使用されますが,より具体的には,経営者,従業員,株主,取引先等の企業関係者が関与・協議して,自律的な合意形成を行なっていくシステムを指します。コーポレート・ガバナンスは,1970年代にアメリカで発生した会計不祥事を契機に議論されるようになり,日本では1990年代からその言葉が用いられるようになりました。そこでは,法令遵守といった適法性ガバナンスの側面と収益性の維持向上といった効率性ガバナンスの側面が挙げられます。もともと,コーポレート・ガバナンスが不祥事を契機に議論されるようになったことから,コーポレート・ガバナンスというと適法性ガバナンスの側面を連想される方が多いのではないかと思いますが,近年では,企業の収益性の観点から捉えられています。2013年及び2014年の日本再興戦略においても,企業の稼ぐ力の観点からコーポレート・ガバナンスの強化が指摘されました。このような流れのなかで,今回のCGSガイドラインでは,企業が長期的に持続的成長を確保するためにESG(環境・社会・ガバナンス)を踏まえた経営を行うことが重要であり,そのなかでもガバナンスが要となることが指摘されています。ESGに関しては,年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が,本年6月にも,運用委託先にESGを判断基準として議決権を行使するよう求める内容の指針を策定する予定であり(※1),ガバナンスへの取組みは,企業の資金面からも求められています。もちろん,企業の規模によりこれらの取組みに差異は生じますが,今後は長期的視点に立った上で,企業の持続的な成長の観点に立つことが求められ,このことは必ずしも大企業のみに当てはまるものではなく,中小企業であっても取り入れるべき事項があると考えます。次回のコラムでは,CGSガイドラインの内容についてご紹介したいと思います。
※1 日本経済新聞平成29年5月8日記事
(http://www.nikkei.com/article/DGXLASGC02H04_S7A500C1EE9000/)