1 騒音問題
マンションには多数の人が暮らしています。
それぞれが自分の望む生活を実現しようとすれば、他の人の快適な生活を妨害することになり、トラブルが発生してしまうことがあります。私たち弁護士がマンションにおける騒音問題に関する相談を受けることは、決して少なくありません。
2 子どもによる騒音
騒音の原因も様々ですが、「子どもによる騒音」が問題になることもあります。例えば、上の階からの子供が廊下を走ったり、跳んだり跳ねたりする音が問題となるケースです。
3 騒音に対する法的手段
マンションにおける騒音に対する法的手段としては、①不法行為に基づく損害賠償請求、②人格権又は所有権に基づく差止請求、③区分所有法57条に基づく差止請求が考えられます。
①は、損害賠償請求、すなわち、騒音により被った損害の賠償を請求するものです。②、③は、騒音の原因となっている行為をやめるように請求するものです。
4 損害賠償請求~「受任限度論」~
損害賠償請求が認められるか否かは、騒音が受忍限度を超えているか否かにより判断されます。受任限度を超えているか否かにより判断されるというのは、要するに、「ある人が騒音を出したからといって、直ちに違法となるわけではありません。日常生活において、一定の騒音というものはつきものであり、騒音の全てを違法と言ってしまっては、日常生活を送れなくなります。『受忍限度』を超えた騒音のみが、違法と評価され、損害賠償の対象となります。」ということです。
5 上の階からの子ども騒音につき損害賠償請求を認めた事例
例えば、子どもによる騒音が問題になって事案につき、裁判所は「本件音は、被告の長男(当時3~4歳)が廊下を走ったり、跳んだり跳ねたりするときに生じた音である。本件マンション2階の床の構造によれば、重量床衝撃音遮断性能(標準重量床衝撃源使用時)は、LH-60程度であり、日本建築学会の建築物の遮音性能基準によれば、集合住宅の3級すなわち遮音性能上やや劣る水準にある上、本件マンションは、3LDKのファミリー向けであり、子供が居住することも予定している。しかし、平成16年4月ころから平成17年11月17日ころまで、ほぼ毎日本件音が原告住戸に及んでおり、その程度は、かなり大きく聞こえるレベルである50~65dB程度のものが多く、午後7時以降、時には深夜にも原告住戸に及ぶことがしばしばあり、本件音が長時間連続して原告住戸に及ぶこともあったのであるから、被告は、本件音が特に夜間及び深夜には原告住戸に及ばないように被告の長男をしつけるなど住まい方を工夫し、誠意のある対応を行うのが当然であり、原告の被告がそのような工夫や対応をとることに対する期待は切実なものであったと理解することができる。そうであるにもかかわらず、被告は、床にマットを敷いたものの、その効果は明らかではなく、それ以外にどのような対策を採ったのかも明らかではなく、原告に対しては、これ以上静かにすることはできない、文句があるなら建物に言ってくれと乱暴な口調で突っぱねたり、原告の申入れを取り合おうとしなかったのであり、その対応は極めて不誠実なものであったということができ、そのため、原告は、やむなく訴訟等に備えて騒音計を購入して本件音を測定するほかなくなり、精神的にも悩み、原告の妻には、咽喉頭異常感、食思不振、不眠等の症状も生じたのである。以上の諸点、特に被告の住まい方や対応の不誠実さを考慮すると、本件音は、一般社会生活上原告が受忍すべき限度を超えるものであったというべきであり、原告の苦痛を慰謝すべき慰謝料としては、30万円が相当であるというべきである。」と述べました(東京地判平19・10・3/ 判例タイムズ1263号297頁)。
6 管理会社への相談
マンションにおける騒音問題に困っている場合には、管理会社に相談してみるのも、対応の一つであろうと思います。管理会社が注意喚起(1階ロビーへの張り紙など)をしてくれたり、場合によっては相手方に個別の連絡をしてくれることもあります。
7 弁護士への相談
もっとも、管理会社として対応できることには限界があります。騒音問題は居住者同士のトラブルであり、そうである以上は管理会社としても一方の主張に基づいて、もう一方に対して強い要求をするということがなかなか難しいのです。
そこで、管理会社に相談しても、解決が難しいような場合には、弁護士に相談する必要があります。相談にあたっては、事実経過を整理した書面、また、録音や騒音を測定した記録等騒音の証拠を準備しておくことが望ましいと思います。