1 管理費等はマンションを維持するため不可欠のものであり,管理費等の滞納が生じた場合は,マンション管理組合において,速やかに対応し,滞納を解消しなければなりません。
2 しかし,現実には,滞納に対する具体的対応がとられず,問題が先送りされてしまっているケースが見られます。
今回,管理費等を滞納している者の氏名を公表(例えば,1階ロビーの掲示板に掲示するなど)することの可否について,話をしたいと思います。
なお,管理費等の滞納に関しては,以下のコラムも参照されてください。
3 さて,管理費等を滞納している者の氏名を公表(例えば,1階ロビーの掲示板に掲示するなど)することの可否についてですが,氏名公表は名誉毀損やプライバシー侵害となる可能性が大であり,管理組合としてはそのような手段は控えるべきであると考えます。
4 関連して,別荘地を管理している団地組合であるA町会において,管理費等を滞納しているBらに対し,立看板に氏名を記載したところ,Bらが名誉棄損にあたるとして慰謝料を請求した事案について,東京地方裁判所平成11年12月24日判決(判例時報1712号159頁)は,次の①~⑤のように判断し,名誉毀損にはあたらないと判断しました。しかし,この判断は,この事案の特殊性を考慮したものと考えられます。ですので,一般化して「立看板に氏名を記載しても名誉棄損にならない」と考えるべきではありません。
「① A町会は,昭和四六年設立以後,本件別荘地の建物所有者を会員とし,本件別荘地内の道路の管理,補修,街路灯の設置その他の管理業務を行い,これに要する管理費を徴収してきたものであり,住民組織である自治会,町内親睦会とはその性質を異にする。本件別荘地には,A町会を批判するグループが存在し,あるグループは,A町会は建物所有者以外の建物利用者等を排除するとして新たに住民組織の結成を準備し,また,Bらを含むグループは,平成五年ころからA町会の経理,収支等が不明朗であるとして経理や収支の明細の公開等の健全化を目指し「Aを明るくする会」を結成した。
② A町会は,会則三条で,会員に管理費の納入義務を定め,管理費滞納者に対しては,毎月管理費請求書を送付し,管理費を滞納していること及び滞納額等を通知していた。管理費の納入については,長期の滞納者が存在し,平成七年六月の総会において,出席者から「本日出席者の中に二〇年以上にわたり管理費を滞納している人が三,四人いるが公正な納付を願いたい。」,「管理費を納める会員と納めない会員との間に不公平感がある。」,「管理費の滞納者は氏名を公表すべきだ。」などの意見が相次ぎ,さらに,管理費滞納者に対して氏名発表も含め徹底追及するとの件が緊急動議として提案されたため,その取り扱いを役員会に一任することが可決された。そこで,役員会は,右問題につき検討し,平成九年一〇月の役員会で,会則三条四項の規定の適用によるサービス停止を決定した。右条項は,管理費を三年以上滞納し,納入に応じない会員及びその関係者は,A町会が行う会員へのサービスの全てを受けることができないものとする旨規定する。A町会は,右役員会の決定に基づき,同年一二月一日付で,「A町会会長C」名義の通知書により,Bらに対し,今後は会則三条の適用によりサービスを停止されること,同月一〇日をもって,滞納者の氏名を始め,滞納月数,滞納金額等を公表すること及び支払の意思があれば公表等は中止することを通知した。右通知後も,Bらから,管理費の納入や支払の意思ある旨の連絡はなかった。
③ そこで,A町会は,平成九年一二月一〇日ころ,Bらにつきサービスが停止されたことをBらの関係者(来訪者など)に知らせるべく,図面記載の三四か所に,長期滞納者に関し(滞納期間二三年以上の者三名,九年ないし二二年に及ぶ者六名),管理費長期滞納者一覧表と題し,Bらの所有する別荘の区番,Bらの氏名,月額の管理費四〇〇〇円,未納開始月及び滞納期間を一覧表にして,本件立看板を設置した。そして,Bらの内1名については,平成一〇年四月二日に管理費として四〇〇〇円の入金があったので,A町会は,管理費の支払意思があると判断し,同月二八日,本件立看板からその氏名を削除した新たな立看板に替えた。そして,同年一二月三日,立看板を全て撤去した。
④ 本件立看板の設置場所は,本件別荘地の道路沿いで,大半がゴミステーションの付近であった。本件別荘地内の道路は,外部公道と接する地点に検問所等がなく,外部の通行人や車両が本件別荘地へ出入りすることは可能であり,現に釣場であるおおなだ海岸には外部者が訪れている。
⑤ そこで,本件立看板の設置がBらの名誉を害する不法行為になるか否かについて検討する。
まず,本件立看板の文言及びその記載内容は,単にBらが管理費を滞納している事実及びその滞納期間等を摘示したもので,Bらには管理費の支払義務があるので,その内容は虚偽ではない。次に,A町会は,総会における会員の発議により,総会の決議に基づき役員会の決議を経た上で会則の適用を決定し,その後,滞納金額等を公表すること及び管理費納入の意思があれが公表を控える旨をBらに通知し,本件立看板設置前に一応の手段を講じている。そして,Bらの「Aを明るくする会」がA町会を批判してそのメンバーが管理費を滞納していること及び本件立看板は三四か所にもわたって設置され,本件別荘地に住民以外の者も出入りできるため,住民以外の者もBらが管理費を滞納している事実を容易に知り得る状態にあったという事情はあるが,A町会としては,管理費を支払っている会員との間の公平を図るべく,Bらにつきサービスが停止されたことを関係者(来訪者など)に知らせ,ゴミステーションの利用等A町会が提供するサービスを利用させないようにするために,本件立看板を,特にその大半をゴミステーション付近に設置したものであり,公表という措置そのものがもつ制裁的効果はあるとしても,ことさら不当な目的をもって設置したものとまではいえない。また,本件立看板が一年以上設置されたのは,Bらが依然として管理費を支払おうとしないためであり,A町会は,管理費を一部でも支払えば氏名を削除するという対応をとっていたものである。
このように,本件立看板の設置に至るまでの経緯,その文言,内容,設置状況,設置の動機,目的,設置する際に採られた手続等に照らすと,本件立看板の設置行為は,管理費未納会員に対する措置としてやや穏当さを欠くきらいがないではないが,本件別荘地の管理のために必要な管理費の支払を長期間怠るBらに対し,会則を適用してサービスの提供を中止する旨伝え,ひいては管理費の支払を促す正当な管理行為の範囲を著しく逸脱したものとはいえず,Bらの名誉を害する不法行為にはならないものと解するのが相当である。」
5 管理費等の滞納に対する具体的対応がとられない場合,滞納額は膨らみ,また滞納者と連絡が取れなくなる等,問題への対応がさらに難しくなる場合があります。管理費等の滞納が生じた場合は,マンション管理組合において,速やかに対応し,滞納を解消しなければなりません。
管理費等の滞納問題が生じている管理組合においては,お気軽に当法人(弁護士植木)までご相談ください。
弁護士 植木 博路