1 マンションの管理費,修繕積立金とは何か?実際に分譲マンションを購入し,これらを支払っている方はもちろん,そうでない方も,日常生活で幾度となく耳にしたことのある言葉ではないでしょうか。マンションの購入を検討する際に,管理費がいくらか,修繕積立金がいくらかということを,重視する方もいると思います。
では,管理費,修繕積立金とは具体的にいかなるものなのか,本コラムでは,この点を明らかにしていきたいと思います。
2 まず,本コラムでは,マンションの敷地及び共用部分等の維持管理に関し,日常の維持管理に必要となる費用を「管理費」,計画修繕等で必要となる費用を「修繕積立金」とし,管理費と修繕積立金をあわせて「管理費等」と呼ぶこととします。
3 管理費等を負担するべき者は,区分所有者です。
区分所有者が死亡した場合は誰が負担するのかですが,相続人が負担することになります。相続人が複数いる場合,死亡までの滞納分は相続分に応じた分割債務になります。例えば,100万円の滞納がある場合で,相続人が妻1人と子2人の場合には,妻が50万円の債務を,子2人が各25万円の債務を負うことになります。他方,死亡後に発生した管理費等は不可分債務となると考えられています。例えば,相続人が妻と子2人の場合には,妻と子2人の全員が,それぞれ死亡後に生じた管理費等の全額を支払う義務を負います。なお,不可分債務を履行した債務者は,他の債務者に対し,求償が可能です。
では,マンション完成後の未分譲部分がある場合,この未分譲部分の管理費等はどうなるのでしょうか。これについては,当該未分譲部分の区分所有者たるマンション分譲業者が負担しなければならないと考えられています。
4 次に,一部共用部分の問題があります。
例えば,11階建てのマンションがあって,5階以上の居住者専用のエレベーターがついていたとします。1階から4階に住んでいる人は,そのエレベーターを使うことはまずないわけです。1階から4階の区分所有者が「エレベーターの維持管理・修繕に関する費用を,自分達が負担しなければならないというのは疑問だと」考えても不思議ではないと思います。
一部の区分所有者のみの共用に供されるべきことが明らかな共用部分(一部共用部分)といえれば,そのエレベーターに関する管理費等は,5階以上の区分所有者のみで負担すべきということになります。しかし,「ある共用部分が構造上機能上特に一部区分所有者のみの共用に供されるべきことが明白な場合に限ってこれを一部共用部分とし,それ以外の場合は全体共用部分として扱う」と考えられており(東京高判昭和59年11月29日判例タ566号155頁等)。それゆえ,上記事案では,1階から4階の区分所有者も5階以上の居住者専用のエレベーターの管理費等を負担しなければならないということになりそうです。
5 管理費等が何かというと,それは,マンションの敷地及び共用部分等の維持管理に関し,恒常的に支出される費用であり,区分所有者が負担すべきものという説明になります。なお,最高裁は「管理費等の債権は,管理規約の規定に基づいて,区分所有者に対して発生するものであり,その具体的な額は総会の決議によって確定し,月ごとに所定の方法で支払われるものである」と述べています。
では,具体的にどういったものが,管理費等として区分所有者が負担すべきものにあたるかを考えたいと思います。つまり,管理規約で定めても,あるいは,総会で決議しても,違法であるとして管理費等としての徴収が認められない場合があります。
例えば,町内会費ですが,「区分所有法第3条,第30条第1項によると,原告のようなマンション管理組合は,区分所有の対象となる建物並びにその敷地及び付属施設の管理を行うために設置されるのであるから,同組合における多数決による決議は,その目的内の事項に限って,その効力を認めることができるものと解すべきである。しかし,町内会費の徴収は,共有財産の管理に関する事項ではなく,区分所有法第3条の目的外の事項であるから,マンション管理組合において多数決で決定したり,規約等で定めても,その拘束力はないものと解すべきである」と述べた裁判例があります(東京簡判平成19年8月7日)。
また,管理費等としてインターネット利用料金の請求がなされたことに対し,区分所有者がインターネットを利用していないとして,支払いを拒否した事案につき,「本件インターネットサービスに係る物理的なLAN配線機器等のインターネット設備そのものは,本件マンションの区分所有者の共用部分であるということができるから,その保守,管理に要する費用は,本件マンションの資産価値の維持ないし保全に資するものであるということができ,したがって,その費用は各区分所有者が一律に負担すべきものである。
これに対し,本件マンションの各戸に対してインターネットサービスを提供するために締結されたインターネット接続回線契約やプロパイダ契約に基づき発生する費用は,控訴人が主張するように,インターネットを実際に利用していない者にとって負担すべき根拠がないようにも思える。しかし,そのようなサービスが本件マンションの全戸に一律に提供されているということは,本件マンションの資産価値を増す方向で反映されるから,これらに要する費用についても,本件マンションの資産価値の維持ないし増大に資するものといえ,その観点からは,各区分所有者が,本件インターネットサービスの利用の有無にかかわらず,その費用支出による利益を受けているといえる。また,本件管理規約二六条一項二号の『インターネット利用料金』について,本件インターネットサービスの利用の有無を考慮して戸別に利用料金を定めることになれば,本件マンションの各戸における本件インターネットサービスの利用状況を戸別に確認する必要が生じることになるが,上記認定事実のとおり,本件インターネットサービスは,本件マンションの各戸が個別にインターネット回線契約やプロパイダ契約を締結することや複雑な設定をすることなく利用できるサービスであるため,実際の利用の有無を確認するために新たな人的,物的コストが発生してしまうことを避けられないという問題があり,さらには,その確認に要するコストを誰にどのように負担させるべきかという問題や,いわゆるただ乗りをする区分所有者への対処という派生的な問題が新たに発生するおそれがある。また,上記のとおり,インターネット設備そのものの保守,管理に要する費用は,各区分所有者が一律に負担すべきものであるから,利用の有無で負担額を決めるためには,インターネット接続業者との契約内容に関わらず,インターネット設備の保守,管理費用と,接続そのものに要する費用を分けて各戸が負担すべき費用を算出しなければならないという問題も生じてくる。そうすると,このようなコストや種々の問題の発生(その処理のために発生する費用は,各区分所有者の負担となる。)を回避するという意味では,本件インターネットサービスの利用の有無を問わず,インターネット利用料金を一律に徴収する旨を定めることには一定の合理性があるといえる」と述べ,インターネット利用の有無に関係ななく利用料金を管理費等として請求できるとした裁判例があります(広島地判平成24年11月14日判時2178号46頁)。
6 以上,マンションの管理費,修繕積立金につき述べてきました。管理費や修繕積立金はマンションを維持管理していくために必要な費用ですが,そうであるがゆえに,管理費等をめぐってはたくさんの利害関係者が登場し,複雑かつ深刻な紛争にいたることがあります。管理費等を支払っている方はもちろん,そうでない方も,いま一度,マンションの管理費や修繕積立金が何かを考えていただければと思います。その際,このコラムがその一助になることを願います。
弁護士 植木 博路