1 マンションの管理費等の滞納がある場合,その区分所有権の特定承継人も,支払義務を負うことになります。例えば,管理費を滞納していたAさんがBさんに,○×マンション806号室を売却した場合,A さんも,Bさんも,管理費の支払義務を負うことになります。管理組合は,Aさんに対しても,Bさんに対しても,滞納されている管理費を請求することができます(もちろん,二重に支払を受けることはできませんが,管理組合の判断で,どちらにいくらを請求するか決めてよいのです)。
Bさんは,自分がマンションを使っていたわけではなく,滞納したわけでもないのに,支払義務を負うのです。このことを規定しているのが,建物の区分所有等に関する法律第8条です。同条は「前条第1項に規定する債権は、債務者たる区分所有者の特定承継人に対しても行うことができる」と定めています。この規定の趣旨は,区分所有者に対する債権を強化してマンションを円滑に維持管理するところにあるとされています。
2 1に述べた例のように,AさんとBさんが話し合って売買をするケースでは,管理費等の滞納についても話し合いが行われるでしょう。また,Bさんが管理組合に対し,滞納されていた管理費を支払った場合には,Aさんに対し求償することも可能です。
これに対し,競売によってマンションの区分所有権を取得するケースでは,買受人において,十分注意する必要があります。競売によって区分所有権を取得した者も,管理費等の滞納があれば,その支払義務を負うのです。この場合,前所有者は資力がなく,したがって,買受人が管理組合に対し滞納されていた管理費を支払ったとしても,前所有者から回収することは現実的に困難と考えられます。現況調査報告書には管理費等の月額や,管理費等の滞納の有無,有の場合は調査時点での滞納額などが記載されていますが,管理会社等も記載されています。管理会社に直接問い合わせるなどして,当該物件を取得した場合に負担することになる管理費等につき,できる限り調査を行うべきでしょう。
3 ところで,マンションの管理費を滞納していたCさんが,Dさんに,△□マンション403号室を売却した後,Cさんが破産した場合は,どうなるかを考えてみたいと思います。Cさんが破産し免責許可決定が確定すれば,Cさんが滞納していた管理費支払義務は,自然債務(支払いを強制できない債務)になります。では,Dさんの債務(区分所有法第8条により負担する管理費の支払義務)も自然債務になるのでしょうか。
Dさんの債務については免責許可の効力は及びません(破産法253条2項)。したがって,Dさんは管理費を支払わなければなりません。また,管理費を支払ったDさんは破産したCさんから回収することもできません。
弁護士 植木 博路