人が自分を幸せと考える瞬間はどんな時? 家族とのだんらん、感動的な芸術作品の鑑賞、人それぞれ。 その一つは他人の不幸情報を聞いたとき、
テレビや週刊誌でお馴染みの芸能タレントの不祥事、離婚の噂が取り上げられる。
テレビ画面や記事の写真の中の有名人の困惑した顔、悲しそうな顔を見たとき、自分はそれほど幸せではないかも、それでも、この人たちよりは幸せだと感じる、幸福感を他人との比較で感じるときがある。
税務署の人にとって、他人の不幸情報、被害情報はどんな意味を持つのか?
新聞や週刊誌で「有名な会社が下請け業者に脅されていた」というインタビュー記事でも載っていたら、普通の人は、この会社気の毒だ、自分はそんな目に合わないよう気を付けようと思うかも。
税務署の人は、このような記事から、この有名な会社は何か下請け業者に弱みを握られているのではないか、ひょっとすると、この会社は、その下請け業者に架空仕入れの片棒担ぎをさせていたのではないか、単純に被害にあった会社として済ませるわけではなさそうである。
皆さんの会社に税務署員が税務調査に来たとき、取引先との取引金額、会社の所在地等をメモしていることがある。このメモは実地調査資料というそうだが、そのときすぐに摘発材料にならなくても、念のために資料として収集しておけば、その取引先の税務調査の際反面調査の資料の代わりになることもあるとのこと。
ところで、この反面調査とは何か? 反面調査というのは、税務調査手法の一つ。税務署が目を付けた、ある会社(本調査先という。)にとって取引先に当たる会社(反面調査先という。)に対する税務調査のこと。
このような反面調査は、本調査先で脱税が見つかったり、脱税の疑いをもたれたりしたとき、裏付けのために行われる。
その他にも、本調査先が帳簿の提示を拒むとか、質問に対して回答拒否とか税務署に非協力な態度をとる場合、質問にウソの答え、何度も要求しないと帳簿を提出しないとか不誠実な態度をとる場合、そもそも帳簿や証憑を保存していないとか、帳簿の記帳がいいかげんとか帳簿・証憑類の不備の場合などに行われる。
税務署としては、本調査先にそんな態度をとられれば、その取引先に反面調査をしたくなるのももっともであろう。
本調査先も上記のような態度をとれば、その取引先に反面調査をされて、反面調査を受けた取引先に手間ヒマをとらせて迷惑をかけるし、疑念を抱かせたり、別に脱税なんかしていない場合でも、取引先に痛くない腹を探られ、取引先から極端な場合信用問題となって取引停止をくらうようなことにもなりかねない。
また、反面調査先の取引先こそいい迷惑である。気持ち悪いのは、反面調査を受ける取引先会社の方である。
ある日、某税務署員が税務調査にやって来て、自社のことを聞かれるなら仕方がないが(これも気持ちが悪い)、しきりに自社の取引先会社である本調査先のことをしつこく聞かれる。
そして、一般の税務調査なら一定期間前に調査に来る旨事前通知があるが、反面調査が行われる際には、事前の電話連絡もなく、いきなり税務署員が反面調査先にやってくることが多いそうである。
なぜなら、税務署としては、本調査先と反面調査先による口裏合わせや証拠書類の改ざん・隠ぺいなど警戒するからである。
反面調査先で代表者不在の場合はどうなるのか。税務署員は、代表者不在と聞いただけで、その日に来た用件も告げずに帰ってしまうようである。
そんな時、どうも来たのは税務署の人みたいだが、どうして来たのか皆目わからないというのも不気味なことこのうえない。
国税通則法74条の2では「調査について必要があるときは」税務調査が出来る旨規定している。反面調査も税務調査の一つであり、「必要があるとき」のみ行われるべきで、正当な理由なく反面調査を実施することは出来ないのが建前。
しかしながら、反面調査の時期・程度などは、税務署員の合理的な判断にゆだねられており、うかつな反面調査非協力はお勧め出来ない。
脱税になる例としては、①売上の過少申告、②仕入れの過大申告、③架空外注費の計上、④架空人件費の計上、⑤架空経費の計上などがあげられる。
これらはなんらかの形で本調査先と反面調査先である取引先と間の取引行為が絡むので、脱税摘発には反面調査が必須ともいえる。
そして、この本調査や反面調査の過程で、自社の不埒な従業員が取引先の従業員とぐるになって不正行為をして、自社にとって不利益な行為、詐欺、横領といった不正行為で自社に損害を与えていることが発覚することもある。
これについては私が所属する専門職(弁護士、税理士、司法書士、社労士などいわゆる士業といわれる人)の団体である企業法務・会計研究会で「従業員の不正経理、横領行為」という題名でくわしい内容の報告をしたことがあるので、またいつか別に一般の方にもお話しできる機会があるだろう。
また、税務調査について、税務署は税務調査の際にビデオ撮影を許すかという法律相談を受けたことがあるが、若干特殊だが、税務調査、税務署員の質問検査権など税法と行政法の交錯する問題であり、別の機会に取り上げたいと思う。
税務調査で何かご相談があれば、当法人北九州オフィスの電話093-967-1652に電話して弁護士永留を呼び出して下さい。 以 上