Notice: Function _load_textdomain_just_in_time was called incorrectly. Translation loading for the wp-pagenavi domain was triggered too early. This is usually an indicator for some code in the plugin or theme running too early. Translations should be loaded at the init action or later. Please see Debugging in WordPress for more information. (This message was added in version 6.7.0.) in /home/agl-law/www/agl-law.jp/wp-includes/functions.php on line 6114
分譲マンションの値下げ販売
トップへ戻る

弁護士法人 ALAW&GOODLOOP | 福岡・北九州・長崎の企業法務、法律顧問契約、法律相談

コラム

分譲マンションの値下げ販売

植木博路

投稿日

2018.09.03

投稿者

植木 博路

カテゴリー

その他企業法務全般

1 分譲マンションが売れ残った場合,売主において,値下げ販売を検討することがあると思います。マンションの維持管理にはコストがかかりますし,時間が経てば,市場価格や社会状況も変化しますから,販売価格を下げて完売を目指すという判断は合理的です。
もっとも,既に購入した者においては,値下げ販売を実施した売主に対し不満を抱くこともあるのではないでしょうか。自分が購入した価格よりも低い金額で販売がなされることについての不満です。裁判が起こされるケースもあります。ただし,値下げ販売が問題とされた裁判例でも,ほとんどの場合,売主の責任は否定されています。そのような中で,今回は,値下げ販売を行った売主の責任を認めた裁判例を,以下に紹介したいと思います。

2 大阪高判平19.4.13(判時1986号45頁)です。
事案の概要ですが,被告(売主)は平成11年1月,兵庫県芦屋市に総戸数203戸のマンションを新築し,1坪平均154万円で分譲を開始し,原告ら(67戸,総勢82名)は,平成11年3月から平成12年3月まで,被告から本件マンションの住戸(区分所有権)を購入しました。本件マンションは,平成13年2月時点で,70戸が売れ残っていました。被告は,新聞の折り込みチラシや特別案内会の開催等により,売れ残った70戸の完売を目指したものの,平成13年7月になっても,1戸も販売できませんでした。そこで,被告は,複数の不動産会社に販売価格や販売方法等についての提案を求め,当該提案を参考にしたうえで,平成14年6月,売れ残った物件を1坪平均83万円で販売することを決定しました。そして,被告は,平成15年5月までに63戸を販売しました。原告らは,被告が行った本件マンションの値下げ販売は原告らが購入したマンションの資産価値を著しく低下させる違法なものであるとして,経済的損害,精神的損害として1戸当たり800万円,総額約5億3600万円の損害賠償を求め,訴訟を起こしました。
第1審(神戸地判平17.11.24)は,被告の責任を否定し,原告らの請求を棄却しました。原告らが控訴したところ,控訴審(大阪高判平19.4.13)は被告の責任を認め,原告らの損害として1戸当たり100万円の慰謝料を認めました。
この控訴審判決は,以下の①~③のように述べ,市場価格の下限を相当下回る廉価での販売は違法であり,平成14年6月時点における再販価格は当初分譲予定価格の24ないし34%とするのが相当で,市場価格の下限を10%以上下回る価格で行われた本件値下げ販売は違法であるとし,被告の責任を認める結論を出しています。
① 分譲マンションは,購入後の人生の大半を過ごすべく,長期保有の目的で,多くの場合は長期のローン負担をして購入される,取引機会の少ない(一生に一度ともいわれている),極めて高額の商品(耐久消費財)であり,通常の商品とは異なる特性を有している。他方,マンションの分譲業者は,地域におけるマンションの需要と供給の動向を,将来の見通しを含めて認識,判断し得る立場にあるから,マンションを分譲する際には,完売ないしそれに近い状態を実現するため,適切な価格を設定することができるし,また,当該マンションを早期に完売できなくても,他の物件と通算して経済的採算を考えることができ,将来の値上がりを待つ等,合理的な経済行動を採ることができる。
② マンション購入者は公団の公的性格から,公団の販売するマンション等の譲渡価格の設定が適正になされているものと信頼してこれを購入し,また,公団は,分譲住宅の需要と供給の動向を認識・判断した上で適正な価格設定をすることができる立場にあった。
③ 5年間の譲渡禁止特約が付されている。そのため,既購入者らは,公団が値下げ販売をすることによる損失(既購入物件に生じる価格下落等)を回避し,又は小さくするため,既購入物件を早期に転売することができなかった。

3 上記②ですが,本件の被告(売主)が住宅供給公社であり,その公的性格に着目した指摘
です。控訴審判決は,一般の分譲業者と比較して,被告にはより重い責任が課せられてい
ると考えています。また,上記③ですが,本件マンションの売買契約には,5年間の譲渡禁止特約が付されていました。そのため,被告が値下げ販売を開始したことで,本件マンションの価格が下落を続けても,原告らはマンションを転売して損失を回避するということができない仕組みになっていました。
商品の価格は、市場における需要と供給のバランスによって決定されます。販売する側においては,同種、同品質の商品であっても、市場の価格動向を見ながら、自由に販売時期と価格を決定することができます。また,購入する側は、商品の品質と価格を他と比較しながら、自らの判断と責任で購入するか否かを決めるのであって、客観的価値以上に高い価格で商品を購入したとしても、その責任は、自らが負担すべきです。商品の価格は、それに希少価値が見出されない限り、型落ち、陳腐化及び使用に伴う減耗等により、通常は、時間の経過とともに低下するのですから、商品を購入した者が、商品購入後、売買時の価格をそのまま保持し得るわけではありません。他方、商品を販売する者は、在庫を抱えていると、保管費その他によってその経営を圧迫されますし、旧商品は、希少価値がない限り、通常、価格が下がるのですから、値下げして販売することには経済的合理性があります。したがって、値下げ販売を行うことは自由であることが原則というべきです。
今回ご紹介した判決は,売主の責任を認めたものですが,分譲マンションの値下げ販売を行った売主の責任が認められるケースは,例外的であると考えてよいと思います。ただ,判決が指摘するように,分譲マンションは,購入後の人生の大半を過ごすべく,長期保有の目的で,多くの場合は長期のローン負担をして購入される,取引機会の少ない(一生に一度ともいわれている),極めて高額の商品(耐久消費財)です。したがって,分譲マンションの販売価格の変更を行う場合には,既にマンションを購入した者との紛争予防の観点から慎重な検討を行う必要があると思います。