国や地方自治体などが行った処分に不服がある場合,行政に対して処分の取消や正しい処分を求める手続があります。審査請求とよばれる手続です。行政処分に際して交付される書面の一番下には,審査請求ができることや,その期間,審査請求先が小さな文字で書いてあることが多いのですが,あまり知られていない手続かもしれません。
実は,この審査請求の手続を定めた行政不服審査法という法律が平成28年に改正されました。それまでは,審査請求をしても,それに対する審理判断を行うのはやはり行政機関だということもあって,必ずしも公正中立な判断がなされないのではないかという疑念がありました。そこで,法改正によって,行政機関に所属しながらも,もともとの処分に関与していない審理員という職員が中立的な立場から審査請求の審理手続を進めるという制度が新たにできました。しかも,審理員の判断が正しいか,さらに行政不服審査会という第三者機関がチェックをするという二段構えになっています(例外もあります)。
このように,慎重かつ客観的な判断ができる体制が整ったのですが,そのぶん,審理員や行政不服審査会に自分の主張を法的に整理された形で伝える必要性も高まりました。その意味では,事案によっては,審査請求の代理人を弁護士に依頼することも選択肢に入れる必要があるかもしれません。
一方で,審査請求の事務を取り扱う行政機関の側も,法的な論点整理や審理の進行を的確にこなせる能力をもった審理員を置く必要があります。法制・法務部門の経験のある係長級以上の職員に審理員の職務を担わせている自治体が多いようですが,法律家としての経験がないと難しい場面も多々あります。自治体内に弁護士職員が常勤として在籍している場合は良いですが,そうでない場合は,弁護士を非常勤の職員として採用し審理員に充てることも検討すべきです(現にそのような運用をしている自治体もあります。)。
行政処分のなかには,いきなり訴訟はできず,審査請求を前置しなければならないものもあります。そうした場合には,審査請求が訴訟の前哨戦となるわけで,早い段階からの法律家の関与が望まれます。審査請求をする市民にしても,審査請求を受ける行政にしても,法に精通した弁護士を積極的に活用することで,紛争の迅速な解決につなげられるはずです。