新しく相談いただいたり,依頼いただくにあたって,弁護士がまず確認しなければならないことがあります。それは「利益相反」の有無です。たとえば,Aという案件でSさんが弁護士に相談に行きましたが,弁護士はすでにその案件について相手方Tさんから相談を受けていたという場合。あるいは,相手方Tさんが別の案件Bですでにその弁護士に依頼をしていた場合。これらの場合,弁護士はSさんの相談や依頼を受けることはできません*。弁護士が守るべき法律や規程でこうした利益相反になる受任はしていけないとされているからです。考えてみれば当然で,自分が相談・依頼をした弁護士が,相手にも有利なアドバイスをしていたり,または別の案件で対立関係にあったりというのでは,弁護士との信頼関係を保つことができなくなってしまいます。
弁護士相談の前に,ご本人や関係当事者の名前や住所をお聞きするのは,こうした利益相反が起きないようにするうえで欠かせないからです。
他のパターンとしては,慰謝料請求や遺産分割などの案件で複数の当事者から相談・依頼を受ける場合です。たとえば不倫をしたことで配偶者から訴えられ,不倫相手も一緒に訴えられたといったケースで,訴えられた二人が一緒に弁護士に相談に行ったとします。しかし,弁護士から,二人を一緒に受任することはできないと言われることもあります。なぜかというと,今は二人仲良くしているものの,今後,案件の解決方法をめぐり二人が喧嘩をするかもしれません。あるいは,最終的に慰謝料を払う段階で,どちらがどのくらいの割合でお金を負担するのか揉めることもあり得ます。このように,二人の意見が分かれた場合,弁護士はどちらかの味方をすることはできません。つまり,全力で二人の依頼者を弁護することが難しくなってしまうのです。こうしたことが起きないように,最初から,一人だけの受任とさせてもらったり,二人の利害対立が顕在化した場合には辞任させてもらうことを条件に二人から依頼を受けたりといった工夫をしています。
弁護士が案件の相談・依頼を断る場合がありますが,実は,こういった事情も背景にあるのだということを知っていただければ幸いです。
*後者の例では当事者双方の同意があれば例外的に受任できることもあります。