贈与税については、いろいろ知らないと大変なことになる問題があります。
その1つが「贈与税の連帯納付責任」というものがあります。
「弁護士業務にまつわる税法の落とし穴」(三訂版)の中で山名隆男弁護士が紹介されている事例です。
ある会社の社長さんが愛人の女性と別れようとして、いわゆる手切れ金をその女性に渡したという話です。
その社長さんにはれっきとした奥様がいらっしゃるとして、その愛人との間で愛人関係を継続するための対価というのであれば、古色蒼然とした言い方ですが、いわゆる妾契約を維持するための扶養料ないし対価ということになります。
この妾契約関係を維持するための扶養料(愛人の方のいわゆるお手当)を支払う旨の契約は無効とされています(大審院大正9年5月28日判決という古い判例)。
その反対に、婚姻外の性的関係を解消する目的で金銭を支払う契約(手切れ金契約)は有効とされています(大審院昭和12年4月20日判決)。
この手切れ金(弁護士がよく使う言い方としては「解決金」)の法的性質は何でしょうか?
おそらく贈与でいいのではないでしょうか?
社長さんに未練がある愛人女性は「慰謝料」と言いたいでしょうが、妻子ある男性が合意のうえで妻以外の女性と愛人関係に入った後、この関係を合意のうえで解消するのであれば、その男性が愛人女性に対し支払う金銭を慰謝料(損害賠償金)とはいえないでしょう。
冒頭の本で問題とされているのは、「(手切れ金をもらった愛人女性が)ちゃんと税金(贈与税のこと)を払ってくれるんでしょうか。解決金と言おうと、手切れ金と言おうと、これは社長からママ(愛人女性)への贈与です(笑)。」ということです。
贈与税は贈与を受けて利益を受けた人が納付するのが常識。
ところが、贈与を受けた人が贈与税を納付しない場合にはなんと贈与をした人も贈与を受けた人に連帯して贈与税を納付する責任というか義務というか、そういうものがあります。これはびっくりですね。
相続税法34条4項という規定があります。
「財産を贈与した者は、当該贈与により財産を取得した者の当該財産を取得した
年分の贈与税額に当該財産の価格が当該贈与税の課税価格に算入された財産の価格の内に占める割合を乗じて算出した金額に相当する贈与税について、当該財産の価格に相当する金額を限度として連帯納付の責めに任ずる」とあります。
要するに贈与を受けた人が納付しなければならない贈与税額のうち、贈与者が贈与したことによって生じた贈与税額は、贈与者が受贈者と連帯して納付する義務があるといっているのです。
手切れ金(解決金)をもらったママさん(愛人女性)が贈与税につき申告も納付してくれなければ、社長がその税金を納付しなければなりませんよ」と弁護士さんが相談者の社長に説明すると、その社長は慌てましたということです。
おまけに、連帯納付義務の負担には贈与税の延滞税などの付帯税まで含まれるので、税額が膨らんだ後に突然税務署から通知があって、贈与者がその全額について連帯納付義務の履行を求められることになりかねません(クーリエ法律事務所)。
低額譲渡の認定を受けて受贈者とされてしまった人についても贈与税の課税が問題と成り得ます。低額譲渡については別の機会にお話しします。
その低額譲渡の売主としては、贈与者とされる危険性を考えれば、買主に対して、
取引実勢価格と時価よりも低い売買価格との差額の贈与を受けたとして、申告及び贈与税の納付をすることを求めたいところです。
以 上