1.昨年5月、民事執行法改正案(民事執行法及び国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律の一部を改正する法律)が成立しました。
実務家が実務で問題と捉えていた問題に(少なからず)対応する改正で、改正当時は注目されていたのですが、現時点ではまだ施行されていません。
この施行が令和2年4月1日となりますので、施行される前に復習の意味で、投稿しておきたいと思います。
2.改正民事執行法の概要
この改正は、①暴力団員が競売に参加することを排除するとか、②今まで明確な規定がなかった子の引渡しを明文化する(今までは物の引渡請求と同じようなかたちで申し立てていました。)、③給与差押の待機期間を4週間に延ばす、などの重要な内容も含むものですが、最重要なものは財産開示手続制度の充実です。
3.財産開示手続制度の変更点
(1)公正証書ではできなかった財産開示手続が利用できるようになりました(新民執法197条)。できない合理的な理由も感じられませんでしたので、合理的な改正だと思います。
(2)不出頭や虚偽陳述に対する罰則が6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金になりました(新民執法213条)。これまでは30万円以下の過料でしたので、大幅な厳罰化ですが、この罰則が事実上の強制力として実際に影響を及ぼせるかは、裁判所と捜査機関の方針次第でしょう。
(3)一番重要なものは、債務者以外の第三者からの情報取得手続の新設です(新民執法205~207条)。
これを個別に指摘すると、
① 市町村や年金機構は、税金徴収の関係上、債務者が誰から給料(または報酬)をもらっているのかを知っているが、これを法的に教えてもらえるようになった。
※ただし、給与債権に関する情報取得手続は,養育費等の債権や生命・身体の侵害による損害賠償請求権を有する債権者のみ
② 金融機関に対して、債務者の預貯金債権の有無や株式、国債、社債等の情報を法的に教えてもらえるようになった。
③ 登記所に対して、債務者の持つ土地・建物に関する情報を法的に教えてもらえるようになった。(これについてのみ、令和2年4月1日からの運用ではなく、令和元年5月17日から2年以内の運用となっています。)
ということです。
このうち①の※に記載した制限は制度の充実を阻害するとは思いますが、いきなりすべて開示できるということに踏み込むことに対するためらいも感覚的には理解できますので、やむを得ないかもしれません。
(4)教えてもらえる情報
これについては、改正法では最高裁判所規則で定めることとされていましたが、同規則は、令和元年11月27日に更新されました(令和元年11月27日最高裁判所規則第5号)。
具体的には、
①給与または報酬に関しては、給与を払っている者の有無と、給与または報酬を支払っている者がいる場合には氏名または名称と住所(規則190条)
②預貯金に関しては、預貯金債権の有無と、預貯金がある場合には取り扱う店舗並びにその預貯金債権の種別、口座番号及び額(株式、国債、社債等に関しては、その有無と、ある場合には銘柄及び額または数)(規則191条)
③土地・建物に関しては、登記名義人である土地等の存否及びその土地等が存在するときはその土地等を特定するに足りる事項(規則189条)
とされました。
(5)難しい言葉で書かれてはいますが、これらの情報は強制執行ができるようにするために提供される情報ですので、当然ながら、この情報を利用して債務者の財産の差押えが可能です。
これまで、実務では財産を有していることができる状態でしたが、この状況が少しでも改善するかもしれません。
私見ながら、債務者が一番おそれるのは刑事事件化されることだと思われますので(人質司法と騒がれているとおり、逮捕されると相当な制約を受けます。)、財産開示手続においても不誠実な態度を示す債務者に対して刑事罰が適用されるのが一番有効ではないかと考えます。
なお、経済的に困窮している者をさらに追い詰めかねないという批判があるかもしれませんが、支払えない債務を負うような方については、放置せずに自己破産手続等を行うことで不当な状況に置かれることは回避できますので、法的にきちんとした対処をすることがより重要になる、というのが私の考え方です。