弁護士の永留です。
前回に「 そしてお盆といえば、もう一つの暑い夏があります。それは、お盆休みには、大型倒産事件や国際金融危機のような大きな経済イベントがつきものだということです。」と結構物騒なことを書いてしまいました。
前回は、実例として、2017年のサブプライムローン・ショックを取り上げました。
ほかに、1997年7月ころ、タイのバーツ通貨危機を発端として、同年8月中に国際金融危機がアジア諸国に広がり、その年11月には、日本の山一證券、北海道拓殖銀行などが倒産する事態が生じ、年末お隣の韓国もあわや国家倒産(デフォールト)の瀬戸際までいったことは記憶に新しいところです。
どうやら、この国際金融危機といってもいい昨年夏の世界同時株安の主役は中国となったようです。
このような国際金融危機が突然のことで発生するわけはありません。その背景には世界経済を揺るがす何かの原因があると思います。
そこで、2008年のリーマンショックのころまでを振り返ってみましょう。
米国の中央銀行FRBは、このリーマンショック後の世界大不況に対処するために金利を下げ、2012年9月には米国国債などの資産を購入する量的緩和政策を始めました(以上、いわゆるQE1,QE2,QE3)。
この量的緩和政策は、市場から米国国債、資産担保証券などの資産を多量に買い上げて、その代金として市場にドル資金を多量に供給するもの。
その他先進国では、日本(アベノミクスと言うよりはクロダ・ダノミックス)、ヨーロッパ(ドラギマジック)(先進国の金融緩和政策競争)。
そのため、米国、日本などの先進国の通貨、とりわけドルが安くなり、相対的に新興国の通貨は上昇、新興国通貨高になってしまいました。
このように、自国通貨髙にたまらなくなった各新興国は、高くなった自国通貨の価格を下げるために、自国通貨を売って、ドルなどの先進国通貨を買う為替介入を行いました。
新興国の一つブラジルの当時の財務大臣マンテガは、先進国の通貨安政策競争を称して「世界通貨戦争」と言って非難し、必死になって自国通貨レアル高をレアル安にしようとする為替介入などの通貨政策を行いました。
これら新興国も為替介入で買ったドルをそのまま持っておくわけにもいかず、そのドルで市場から米国国債を購入します。
このとき、新興国からも、多量のドル資金が市場に流れ込みました(テレビ解説者いわく影の量的緩和)。
世界全体の外貨準備12兆ドル、そのうちの8割が新興国になったそうです。
一方、日経新聞2015年8月24日(滝田洋一氏)によると
FRBなど先進国の金融緩和や新興国自身の影の金融緩和などによって世界全体の市場にジャブジャブにドル資金が流れ込んだおかげで、新興国は簡単に借金が可能となり、負債が積み上がってしまいました。
国際決済銀行(BIS)によると、
国際金融市場での非金融機関のドル通貨建て負債残高は2013年末時点で8兆7000億ドル、円貨建で1000兆円を超す。
とりわけこの中で借りまくったのは、何と言っても中国で3770億ドル、これに続いて、ブラジルの1790億ドル、ロシア、メキシコが続く(以上、日経報道、上記滝田洋一氏の文)。
ところが、これが逆転し始めました。
FRBは、2013年末からFRBは資産買入れ額の縮小を始め、2014年10月29日には、資産買入れ額をこれまでの150億ドルからゼロにしました。
(以上、各新聞報道)
これをテーパーリングといいます。
やがては、量的緩和をやめるだけでなく、低金利にする質的緩和をやめて、金利を上げて引き締めぎみにしていく方向が示されたわけです。
そのために、一転、世界全体の市場はドル安モードからドル高モードに。
日経新聞編集委員によると、
ドル建てで借りた借金は返済するときは当然ドルで返さなければなりません。
自国通貨に比較して高くなったドルで借金を支払わなければならないとすれば、借金は重くなる。
アメリカ利上げ近しでドル高モードなった今、自国通貨を今の内ドルに換えて、返済に備える動きになるのは当然。
中国は、人民元をドルに事実上釘づけにしていて、ドル安のうちは、人民元安でおおいに輸出で稼ぎ良かったのですが、ドル高になって、これにおつきあいしなければならなくなって実力以上の人民元高に耐え切れなくなって、この8月11日人民元通貨の切り下げをしたことが中国発世界同時株安の発端。
(以上、日経等の新聞報道)
いまや、中国は、疑心暗鬼になった世界の市場関係者から、『そんなに中国経済は悪いのか、これからドル高にどんどんなっていくのに、積み上がったドル建ての借金はちゃんと返済できるのか』などの不信感を持たれている(日銀の佐藤健裕審議委員の奈良県での講演挨拶(日銀ホームページ)、新聞報道)。
佐藤審議委員は、中国の情報発信に課題ありと品よく述べられている。
この数年間、中国が資源を爆食して輸出で稼ぎまくり、原料の資源を買いまくる爆買をして、新興国からおおいに輸入して世界経済を支えていたわけであり、これがはたして維持できないのではないかと世界の金融市場は不安に陥れられて世界同時株安になったもの(市場関係者の声、新聞報道等)。
そして、中国は、過剰生産のつけを他国に回すために安値で爆売して、世界の鉄鋼産業は大変苦しい思いをしている(日本その他の世界の鉄鋼関係者の声、新日鉄進藤孝生社長談)。
新日鉄住金の進藤社長は、「問題は引き続き海外だ。中国の過剰生産能力安値輸出といった市況悪化要因がどの程度、落ち着いてくるのか。中国鋼材の動きがどうなるのかでかなり振れ幅が大きくなる。中国鉄鋼メーカーがリストラに着手したという動きもあるが、あまり劇的に改善しないと思っておいたほうがいい。」と語っておられて、中国の過剰生産能力、安値輸出(いわば爆売り)に対する不安の念を吐露されている(日経新聞2016年1月4日(月曜日))。
また、2016年1月6日水曜日の日経新聞報道を要約すると
「 日米欧などの先進国は本年(2016年)4月OECDの緊急閣僚会議の開催を検討。そこで先進国は鉄鋼製品の世界的な供給過剰問題をめぐって、余裕生産能力を抱える中国に是正を求めていく。この会合にOECD非加盟の中国も参加し、製鉄所の設備廃棄、不適切補助金の是正などを盛り込んだ指針を作る方向。世界の粗鋼生産能力は実際の需要を5割強上回った模様。余剰生産能力を持つ中国が安価な製品を輸出し、新興国などでは自国産業保護のため高率関税をかける動きが広がっている。欧米は協調して中国の供給過剰に歯止めをかける」などとされている。
資源や原料の爆食、これら省資源、省エネルギーの配慮のなさには目をひそめたくなる思いもしたが、リーマンショックに打ちひしがられた日米欧先進国に代わって、一人中国が4兆人民元景気対策を駆使して、資源やエネルギーを爆買してくれたおかげで、新興国、とりわけ新興資源算出国の経済を支えて、世界経済を何とか破たんさせないようにした功績は認めるべきである。
「中国は、過剰生産のつけを他国に回すために安値で爆売して」と述べたことに対して、いささか中国に対する偏見ではないかとのおしかりの向きもあるかもしれない。
しかし、いまや上記の日本の製鉄会社経営者や日米欧先進国が緊急閣僚会合開催検討にまで至っているほど中国以外の国々が追いつめられていることも理解していただきたい。
ある民放ニュースの若い女性アナウンサーが中国は景気が悪くなったと番組コンメンテーターはおっしゃるが、PM2.5ちっとも良くなっていないのはなぜですかと質問したとき、この鋭い質問を聞いて、私は、まさにそこが問題だと思った。
つい先日昨年2015年12月15日、16日のアメリカの中央銀行FRBはいよいよ現在の実質ゼロ金利政策をやめて、金利を上げました。7年間続いたゼロ金利を解除、このまえの利上げからは実に9年半ぶりの利上げです。
これは、上記の逆転の総仕上げの始まりといえます。
中国の世界経済における存在は大きく、ここ当分中国や新興国の経済を注意してみていくほかないと思います。
ここまで書いて新年(2016年)1月4日取引の幕が開いた途端、サーキットブレーカー発動、これについては別の機会に述べたいと思います。
昨年夏に襲ってきた中国発世界同時株安について
投稿日
2015.08.20
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