今回は、民法改正についてお話したいと思います。2017年5月26日に「民法の一部を改正する法律」(以下「改正法」という。)が成立し、この改正法は、一部例外はあるものの、2020年4月1日から施行されることになりました。この民法改正ですが、債権関係の規定について、社会・経済の変化への対応を図り、国民一般にわかりやすいものにする等の必要性から、契約に関する規定を中心に見直しが行われています。
改正内容は多岐にわたりますが、今回は、「消滅時効に関する見直し」について、実務上、重要となってくる点をいくつかお話したいと思います。
まず、今回の民法改正では、「職業別の短期消滅時効の廃止」「時効期間の統一化」がなされました。現行の民法では、「飲食料、宿泊料など」は1年、「弁護士などの報酬、売掛代金」などは2年、「医師、助産師の診療報酬」などは3年という職業別の短期消滅時効があります。しかし、これらについては「ある債権にどの時効期間が適用されるのか、複雑で分かりにくい」という声があり、シンプルに統一化することになりました。
改正法では、職業別の短期消滅時効はすべて廃止し、商事時効の5年も廃止し、原則として「知ったときから5年」「権利を行使することができる時から10年」に統一されることになりました(新166条1項)。
次に、「生命・身体の侵害による損害賠償請求期間の時効期間」につき、現行法に対しては、「生命・身体は重要な法益であり、これに関する債権は保護の必要性が高い」「治療が長期間にわたるなどの事情により、被害者にとって迅速な権利行使が困難な場合がある」という批判があったことから、改正法では、人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権の時効期間について、不法行為については「3年から5年に」、債務不履行については「10年から20年」に長期化する特則が新設されました(新167条、新724の2)。
また、「時効の中断・停止の見直し」が行われました。詳細は割愛し、実務で重要となってくる「協議による時効完成の猶予」についてのみ説明します。
現行法では、当事者が紛争の解決に向けて話し合いをし、解決策を模索している場合であっても、時効完成の間際になれば、時効の完成を阻止するためだけに無用な訴訟を提起せざるを得ませんでした。
この点について、「紛争解決の柔軟性や当事者の利便性を損なうものであり、新たな制度を設けるべきではないか」と言う声があり、改正法では、権利についての協議を行う旨の合意が書面(又は電磁的記録)でされたときは、①その合意があった時から1年を経過した時、②その合意において当事者が協議を行う期間(1年に満たないものに限る)を定めたときは、その期間を経過した時、③当事者の一方から相手方に対して協議の続行を拒絶する旨の通知が書面でされたときは、その通知の時から6か月を経過した時、のいずれか早い時までの間は、時効は完成しないことになりました(新151条1項)。
さらに、時効の完成が猶予されている間に、協議を行う旨の合意が再度された場合は、その合意の時から原則1年間(新151条1項の規律による)、時効の完成猶予期間が延長されることとなりますが、この延長される期間は最長5年までとされています(新151条2項)。
このように「協議合意による時効完成猶予」の新設により、当事者が紛争の解決に向けて話し合いをし、解決策を模索している場合に、時効期間の満了間際に時効中断のためだけに訴訟提起を行わざるを得ないという負担はなくなるので、時効完成が迫っているときには、この制度を思い出して、「協議合意による時効完成猶予」ができないか検討するとよいでしょう。
以上