第1 相続開始、相続税の申告・納税
1 財産のあるお父さんが亡くなられたときにすぐに直面するのが相続税の申告
と納税の問題です。
亡くなられたお父さんを被相続人、亡くなられることを相続開始、相続人とし
ては、まずお父さんの妻、同じく相続人である皆さん、お子さんたちにとっては
お母さんを被相続人の配偶者といいます。
法律では、相続人は、被相続人の相続開始から10か月以内に相続税の申告書を
作成したうえで相続税の申告をして、相続税を納付しなければならないと定めら
れています。
2 相続問題の相談に答える本に、Q&A「遺産分割ができないので税金が払えな
い。」というのがありました(相続相談、法律税務の実践対応、山名隆男編著、清文社)。
最近、私が現実に行った例があります。
すなわち、遺産の中に二口ほどの預金があったのを幸い、これらの解約払戻し
をしたうえで、このお金を相続税の納税に充てるというアイデアです。
カレンダーをはたとにらむと、もうすぐ被相続人の初盆の日。
遠方にお住いの相続人も見えると聞きました。
そこで、早速、相続人の方々全員に弁護士としての受任の挨拶状を送り、当日、
登録印鑑、印鑑登録証明書等のご持参をお願いしました。
初盆の法事の当日、集まった相続人の方々に銀行から取り寄せた相続預金の解
約払戻し関係の書類に署名・押印をしていただいたうえに、上記の銀行預金につ
いて遺産分割の一部分割協議書の作成が出来ました。
3 相続問題の相談では、「遺産分割ができない」ということで、おまえの話は「出
来る場合」であって、相談に対する答えにならないとの声がありそうです。
これは私が家庭裁判所に勤務していた時の経験です。
長年家裁で遺産分割事件をやっていると、どういうわけか毎年10月くらいに
新しい遺産分割事件の申立てが多いのです。
そこで、遺産分割事件が始まって、遺産分割問題が家裁に持ち込まれたいきさ
つ(経緯)を尋ねてみました。
それによると、親戚一同、故人(被相続人)の初盆に集まった席で、長男が遺
産の家・土地や相続預金の遺産分割の話を持ち出して、書類にハンコを押してく
れといった途端、遺産争いが始まり、蜂の巣をつついたようなって、挙句に弁護
士事務所に飛び込んだとのことでした。
弁護士が遺産分割事件を受任すると、まず被相続人が生まれてから亡くなるま
での戸籍の全部事項証明書集めが必須、これに1か月から1か月半はかかります。
そして申立書作成をして家裁に申し立てるのが10月くらいになってしまうのです。
4 銀行預金については、遺産争いがなくても、弁護士が必要になるときがありま
す。
区役所の高齢者法律相談で、家計をすべて取り仕切っていた奥様に先立たれて、
年金が振り込まれる口座が奥様名義であったところに奥様が亡くなり、生活費も
引き出せなくなって困ったというお年寄りの相談を受けて、銀行との交渉を引き
受けたことがありました。
この事件では遺産争いはなく、相続人である長男さんや亡くなった長女さんの
子であるお孫さんに関係書類に署名・押印をしていただき解決しました。
ただ、遺産争いはなかったものの、依頼者のお年寄りは長男さんと仲が悪く、
会いたくないとおっしゃったので、弁護士である私一人が長男さんのご自宅に伺
い、署名とハンコをしていただきました。
5 弁護士に遺産分割問題の相談を持ち込むのであれば、なるべく早い段階でお願
いしたいものです。
別に、初盆前とはいいません。要するに他の相続人に遺産分割の具体的な話を
持ち掛ける前が良いと思います。
「遺産分割ができないので税金が払えない」という相談を持ち込む前、「自分
自身で遺産分割ができないようにしてしまう前」に相談して下さい。
当事者だけで話し合いをすると、遺産分割をできなくしてしまう危険がありま
す。
税金を払うための相続税納税資金については、私が所属している弁護士、税理
士、公認会計士、社労士など尾っぽに「士」のつく人がメンバーになっている「企
業法務・会計研究会」で発表させていただき、メンバーの皆さんからいろいろ教
えていただいたことがありますので、別の機会にお話ししたいと思います。
以 上