私が家庭裁判所にいたときのある遺産分割調停事件の第1回調停期日。
申立人代理人弁護士は、開口一番「被相続人が亡くなったときから3年以内に調停をまとめていただきたい。」とおっしゃられました。
相続税の法定申告期限は、遺産分割が出来ようが出来まいが、相続開始があったことを知った日の翌日から10か月以内にしなければなりません(相続税法27条①)。
遺産分割につき相続税の法定申告期限内に相続人間で合意が出来ず、遺産未分割であっても、申告を回避することは出来ません。
相続税の法定申告期限内に遺産分割が完了していない場合、各相続人は、「民法の規定による相続分」又は包括遺贈の割合に従って、相続財産を取得したものとみなして、相続税の課税価格を計算して、とりあえず申告をすることとなります(相続税法55条)。
配偶者税額軽減特例、小規模宅地等の課税価格計算特例などは、特例適用の要件は相続税の申告期限までに遺産分割がされていることであるから、上記のとりあえず申告の段階では上記各特例の適用はされません。
ただし、「申告後3年以内の分割見込書」を税務署に提出しておいて、期限から3年以内に適用を受けようとする相続人が遺産分割によって取得すれば、上記特例の適用は認められています(相続税法施行規則1条の6、第3項2号)。
冒頭の申立代理人弁護士が言いたいのは、要するに、本件遺産分割では、配偶者税額軽減特例の適用が期待でき、税務署には、「申告後3年以内の分割見込書」を提出しているので、裁判官、調停委員はがんばって、期限から3年以内に遺産分割をまとめてくれということであろうと思われます。
第1回期日の冒頭から手続きを速くやれと申立代理人弁護士から注文を付けられたのは、裁判官生活で初めてでした。
弁護士としては、遺産分割事件を引き受けるに当たって、各種税額軽減特例の可能性を当事者に説明し、なによりも「申告後3年以内の分割見込書」の提出を忘れないようにしておくのが肝心。
このときは、弁護士さんも税金がわかっとかないとダメ、大変だなあと思いましたが、今は自分自身が同じ立場になって他人事ではないと感じる今日この頃です。