今回は、遺留分減殺請求権の行使の期限についてお話します。
そもそも、遺留分とは、相続人に保障される相続財産の一定割合のことをいいます。
基本的に人は、自分の持っている財産を売ったり、あげたりと、財産の処分を自由にできます。
しかし、相続の場面では、あまりに自由に処分できてしまうと遺族の生活保障が図れなかったり、それまで財産を形成するのに貢献してきた遺族の潜在的持分を清算することができなくなったりします。
そのため、民法では、被相続人が、生前贈与や、遺贈を用いて自由に財産を処分できるとしつつ、一定の範囲の相続人については、遺留分という相続財産の一定割合をもらえる地位を保障しました。
そして、この保障された遺留分を超えて、被相続人が贈与や遺贈をしてしまうと、相続人の遺留分が侵害されたことになります。
その場合、相続人は、遺贈や生前贈与を受けた相手方に対して、侵害された遺留分の分だけ返せと主張することができます。
これを、「遺留分減殺(げんさい)請求権」といいます。
「減殺」とは、減らしたり、少なくしたりすることを意味します。
(日常ではあまり使わない言葉なので、なかなかしっくりこないかと思いますが。)
さて、この遺留分減殺請求権ですが、行使する期限について、民法上2つ定められています。
まず1つ目。
遺留分権利者が、
①相続の開始
②減殺すべき贈与又は遺贈のあったこと
この両方の事実を知った時から1年で時効により消滅するとされています(民法1042条前段)。
その趣旨は、相続関係に基く権利変動はなるべく早く決着をつけて、法律関係の安定を図るためだといわれます。
①について、相続は、被相続人の死亡により開始しますから、被相続人が死亡した事実を知った時と読み替えて結構です。
②について何をどの程度知ったことをいうのかが問題です。
これについては、判例(最判昭和57年11月12日)により、
遺留分権利者が、単に被相続人の財産の贈与又は遺贈があったことを知るだけでは足りず、それが減殺し得べきものであることをも知ることとされています。
減殺できる、つまり、遺留分を侵害していることまで知る必要があります。
遺留分を侵害しているかどうかは、相続財産のうち、民法で規定されている遺留分割合を超える割合の財産を包括的に遺贈する場合(例えば遺言で「相続財産の8割を遺贈する」といった場合)など遺留分を侵害していることがはっきり分かるケースもあれば、相続財産をきちんと調査をしないと明らかにならない微妙な事案もあります。
次に2つ目。
遺留分減殺請求権は、相続開始から10年を経過すれば消滅するとされています。
(民法1042条後段)
1つ目の規定は「知った時から1年」でしたが、こちらは「相続開始(=被相続人の死亡)」から10年を経過すると消滅するとされています。
つまり、相続の開始や遺留分を侵害する贈与又は遺贈を知ってから1年以内でも、その時点で相続開始から10年を経過していたら、遺留分減殺請求権は消滅してしまうことになるのです。
ただし、この規定について、例外を認める裁判例(仙台高判平成27年9月16日)があります。
仙台高裁は、遺留分権利者が、遺留分減殺請求権を行使することを期待することができない特段の事情が解消された時点から6か月以内に同権利を行使したと認められる場合には、同法1042条後段による遺留分減殺請求権消滅の効果は生じないものと解するのが相当である、と判断しました。
あくまで裁判例ですので確立した解釈とまで言えないまでも、参考になる裁判例です。
相続開始の時から10年を経過していても、まだ遺留分減殺請求権を行使できる可能性があるかもしれません。
まずは、専門家にご相談ください。
以上