私は、昨年(2021年)2月5日に、「2021年(令和3年)は「うし年」、「うし年」はつまづく?」という題名で「コラム」記事を出しました。
そこでは、1973年(昭和48年)石油ショック時の思い出を紹介し、時代背景として、1971年ニクソンショックによる世界中への基軸通貨ドルの過剰供給、先進国での穀物や木材の価格高騰、1972年の田中角栄内閣発足、1973年の列島改造ブーム、同年10月6日第4次中東紛争の勃発による石油ショック、石油価格高騰による消費者物価の上昇、1974年の狂乱物価の一連の流れを説明しました。
そして、上記一連の流れ(ドルの過剰流動性に持たされた世界経済)と2019年2月からの新型コロナウィルス禍によるバブル状態と似ているといえなくもないと書きました。
このところ米国のインフレについて、消費者物価や生産者物価(日本の企業物価)上昇がニュースになるたびに40年ぶりの上昇と言われることが多くなり、おまけに偶然でしょうが、49年前の第4次中東紛争に対応して、ロシアのウクライナ侵攻まで起こって、石油ショックの時と同じように石油価格の一層の高騰が発生しました(もっとも石油価格の上昇は同侵攻前からあっており、同侵攻により加速化したものです。)。
そこで、これらを歴史的に考えてみました。
私は、米国のインフレと米国国債の長期金利のうち10年もの
の歴史を振り返ってみたいと思います。長期金利は他にも30年ものなどがあるが,この文では単に「長期金利」という場合、10年もののことを言います。
米国の1970年代のインフレは、1960年代、ベトナム戦争拡大と当時のジョンソン大統領の偉大な社会によるいわゆる「大砲もバターも」の財政拡大政策と中途半端なFRBの金融政策によってもたらされたものと、私は考えています。
ニクソンショックは、米国の70年代のインフレ、ドルの過剰流動性に対して、米国としては、1トロイオンス1ドルの交換比率(固定相場制)を続けることが出来なくなり、金ドル交換停止に追い込まれたというべきであり、ニクソンショックは70年代インフレの原因ではなく結果というのが正しいと思います。
この米国70年代インフレは、1979年にFRB議長に就任したボルカー氏による「ボルカーショック」とまで呼ばれ、1981年には、政策金利は実に20%に達する3年間続いた超厳しい金融引締め政策によって、インフレ率は1981年には13.5%だったものが、1983年には3.2%まで低下して、ようやく収まりました。
このボルカーの金融引締め政策を反映して、米国国債の長期金利は、今から41年前の1981年に最高点に達しました。
その後の米国国債の長期金利は、多少の上げ下げを伴いつつ、トレンドとしては下落を続け、最近では、1%そこいらになりました。
この間に何が起こったのかを見てみます。
米国の長期金利が1981年に頂点に達して、1983年ころから米国は金融緩和に転じた後、既に1978年から始まっていた中国の鄧小平による改革開放路線や、1991年の旧ソ連邦崩壊により、中国や旧ソ連の社会主義国が市場経済化して、東西冷戦時代から同じ市場経済の土俵にたった大競争時代に変わっていき、ついには、中国は世界のサプライチェーンの中心の一つとなって、世界の工場とまで言われるに至りました。
この時代、世界のグローバル経済において効率が重視されて、製造コストは極限まで低下して、世界はデフレ的な経済となりました。
ところが米国のトランプ大統領時代から様子が変わり始め、米中対立が始まり、いままた、2022年ロシアが国際的な約束事を無視して、ウクライナ侵攻に及んで、欧米日の民主主義陣営と中ロの強権主義陣営の対立の時代が始まったことと、その前の2019年2月に始まった新型コロナウィルスのパンデミックの二つによって世界的なサプライチェーンはズタズタとなり、半導体不足に代表される供給ショックなどが生じて、これと米国の2008年のリーマンショックや2019年の新型コロナウィルスショックに対応するために行われた、米国FRBの超金融緩和政策による世界的なドル過剰流動性とが結びついて、米国においては、40年ぶりの物価上昇となり、この動きはヨーロッパにも影響しています(上記各ショック時のFRBの金融緩和は、やむを得なかったが、引締め不十分なうちに新型コロナショックが起き、さらにその後緩和を続け過ぎた。)。
わが日本でも、本年中には、消費者物価は2%に近くなり、世界的な原材料の価格上昇に日本の企業が耐えきれなくなり、また政府のコロナ鎖国で,外国人労働力を便りに出来ない日本で、人手不足が賃金上昇に結びつき、企業が原材料の価格上昇を一般消費者に転嫁し始めれば、世界的インフレの中で日本だけが例外というわけにはいかないと思います。
現在のように多少の賃金上昇があっても、なかなか食料品などの生活必需品の価格上昇に追いつけない状態が続けば、労働紛争も増加し、賃金上昇と縁の無い年金生活者の困窮も心配されるところです。
米国FRBは、2022年3月利上げを開始し、米国の長期金利もこのところ2%を超えて、瞬間的には3%近くにもなったようです。
米国の長期金利の40年にも及ぶ下落の歴史も、本年2022年か2023年を底として、終わりを告げるのかもしれません。
新型コロナウィルス禍に対応した、いわゆるゼロゼロ融資からも3年を超えて、そろそろ返済が始まり、債権回収も問題となってきます。
さらに、これに労働紛争の増加が加わって,大変な時代に突入していくのかもしれません。
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余談ですが、ロシア国債はこの4月初めにも債務不履行(デフォールト)になるかもしれません。デフォールトは、歴史的には、旧ソ連時代(レーニン)と旧ソ連崩壊直後(エリチィン大統領)の2回です。レーニンはロシア皇帝の借金をロシア人民は返済しなくても良いと言ったそうです。日本の場合、国の借金のデフォールトがゼロかはわかりませんが、徳川幕府のフランスからの借金は、明治太政官政府はちゃんと返済しています。
さらに日本はアジアのウクライナと言われる方がおられます。
どういう意味かわかりませんが、歴史的には人ごとではないことは間違いありません。私の記憶の限りですが、文化3年(1806年)と文化4年(1807年)にレザノフが樺太や北海道の拠点を部下に命じて襲わせた事件(文化露寇事件)と文久元年(1861年)中、ロシア軍艦が長崎県対馬に来航して、対馬芋崎を半年余占領した事件(ロシア軍艦対馬占領事件)の二つがあります。
日本もロシア侵攻の被害者になったという歴史的事実は深く記憶しておくべきです。
以 上