ここ数年の間で、労働関係の相談の際には、必ずと言っていいほど「パワーハラスメント」(パワハラ)という単語が出てくるようになりました。
実際に、厚生労働省の調査によれば、平成28年度における民事上の個別労働紛争相談件数(255,460件)のうち、「いじめ・嫌がらせ」に関する相談件数(70,917件)が、27.2%を占めていることが明らかとなっています。
こうした「いじめ・嫌がらせ」を含む「職場のパワーハラスメント」については、「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を越えて、精神的、肉体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」と定義されています。
一般的なイメージである、上司から部下に対しての行為だけでなく、先輩から後輩に対するものや、同僚間で行われるものにもパワハラが成立し得ることに注意が必要です。
また、パワハラの具体的な行為類型としては、
①暴行、傷害(身体的な攻撃)
②脅迫・名誉棄損・侮辱・酷い暴言(精神的な攻撃)
③隔離・仲間外れ・無視(人間関係からの切り離し)
④職務上明らかに不要なことや遂行不能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)
⑤業務上の合理性がなく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じられることや仕事を与えないこと(過小な要求)
⑥私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)
とされています。
このうち、特に④から⑥に関しては、仮に会社としては業務上の適正な指導を行ったつもりでいても、労働者にとってパワハラを受けたという受け止め方となり、その結果法的な紛争に発展することになります(なお、①から③の類型については、そもそも問題となる行為が存在したか否かが主要な争点となるケースも多いように見受けられます)。
パワハラが問題となる際、まず争点になるのは、加害者とされる人の行為が、法律上の損害賠償義務を負う程度のパワハラに該当するか、という点です。この点は、当該行為による権利侵害の有無・程度、行為の態様、当該行為に及んだ動機・目的などの事情を総合的に判断して、社会通念上の相当性を超えているか否かにより判断されます。一義的に判断可能なものではなく、ケースバイケースと言わざるを得ないところです。
そして、問題の行為がパワハラに該当するとされた場合、実際にそれを行った人だけでなく、会社も責任追及を受け得ることに注意が必要です。
会社は「労働者に対して職場の上司及び同僚からのいじめ行為を防止して、労働者の生命及び身体を危険から保護する」という内容の安全配慮義務、言わばパワハラ防止義務を負うとされているからです。
こうした義務を怠っていたと判断される場合には、会社自身も損害賠償義務を負うことになります。
これらを踏まえて会社がとるべき対策としては、可能な限り職場内でパワハラが発生しないような環境作りをすることに尽きるいえます。
会社の方針としてパワハラを許さないという態度を明確にすることや、社内において周知徹底を行い、必要に応じて研修を導入するなど、社員の意識醸成に取り組むこと等の平時からの対応はもちろん必要です。
そして、不幸にもパワハラと思しき事案が発生した場合に備えて、相談窓口の制度を充実させることや、事実関係の確認などの社内調査、結果に対して適切な措置を講じるために就業規則などの社内規則を充実させることも併せて必要といえます。(了)