第1 はじめに
自己株式の取得とは、株式会社が自らの会社の株式を取得することをいいます。会社が株式を取得する際に、株の持ち主(=株主)に対価を支払うこととなれば、会社から株主に資産が流出し、会社の資産が害されることとります。そのため、自己株式の取得には一定の制約が課されています。そして、会社が株主との合意により当該株式会社の株式を有償で取得する方法の代表例としては、①特定の株主から自己株式を取得する方法と②すべての株主に売却の機会を与える方法(=ミニ公開買付)があります。今回は、①特定の株主から自己株式を取得する方法について説明いたします。
第2 手続の流れ
特定の株主から自己株式を取得する場合には、株主総会の特別決議が必要となります(会社法309条2項2号)。
会社は、原則として株主総会の日の2週間前までに、株主総会の招集通知と後述の売主追加請求が可能である旨の通知を発しなければなりません。
株主総会では、取得する株式の数、1株の取得価格と取得価格の総額、株式を取得することができる期間及び特定の株主(以下、便宜上「譲渡株主」といいます。)から自己株式を取得する旨を決議します(同法156条1項、同法160条1項)。なお、この株主総会において、譲渡株主は、議決権を行使することができず、定足数にも算入されません(同法160条4項、同法309条2項柱書)。
株主総会決議を経た後は、会社が譲渡株主に対して決議の内容を通知し、譲渡株主が譲渡しの申込みをすることで、自己株式の取得が成立します。
第3 売主追加請求権
会社が特定の株主のみから自己株式を取得することは、特定の株主のみを特別扱いすることとなりますので、株主間の公平を害することとなります。そのため、譲渡株主以外の株主は、自らを譲渡株主に加えた議案を株主総会に提出して会社へ株式の買取を請求することが認められています(同法160条3項、例外について同法161条、同法162条)。この請求権のことを売主追加請求権といいます。
なお、全株主の同意があれば、売主追加請求権を定款で排除することができます(164条)。
また、以下の場合には、売主追加請求権が認められません。
① 市場価格のある株式を市場価格を超えない価格で取得する場合(同法161条)
② 会社が非公開会社であり、相続人等から取得する場合(同法162条)
③ 子会社から取得する場合(同法163条)
第4 手続違反があった場合
上記のような手続を経ずに自己株式を発行した場合、その自己株式の取得は無効となります。もっとも、取引の安全性の観点から、譲渡株主が手続違反の存在を知らなかった場合には、会社はその自己株式の取得の無効を主張できないと解されています。
また、このような違法な自己株式の取得を執行した取締役などは損害賠償責任を負うことも十分に考えられます。
第5 最後に
今回は、自己株式取得手続のうち、特定の株主から自己株式を取得する方法について簡単に説明いたしました。自己株式取得手続には、今回説明した内容以外にも細かい手続等が必要となりますので、専門知識を有した専門家に相談のうえ実施することをお勧めします。
参考文献
伊藤靖史ほか『会社法』第5版 有斐閣 2021年
森・濱田松本法律事務所編『新・会社法実務問題シリーズ・2 株式・種類株式』第2版 中央経済社 2020年