1.事件の相談の中で多い話として、民事の損害賠償請求等に関連して、相手が悪いことをしているから逮捕してほしい、というものがあります。
実際に相手が犯罪相当のことをやっていることはあるのですが、だからといって即時に逮捕してもらえるというものではありません。
むしろ、逮捕してもらえるのはごく一部です。
2.相手の行為が犯罪であって捜査してほしいという場合に行うのが告訴や被害届の提出ですが、一般的な警察の扱いとして、警察は告訴状を受け取ってくれません。
このような取扱いは法制度上予定されていないのですが、警察が告訴を受け付けてしまうと、自動的に事件処理をしなければならなくなるため、告訴を受け付けてくれない扱いが定着しています。ただ、まったく話を聞かないというわけではなく、告訴状のコピーを受け取って(すなわち正式な告訴扱いせず)、事実上事情を確認することはしてくれます。それで、事件かができそうなものについてだけ、正式に告訴を受理する、という対応です。
被害届の提出は、さらに警察の裁量が大きいため、受け付けてすらもらえないことも多く、事件から時間が経っていると、けんもほろろな扱いを受けることもあります。
以上のようなハードルを乗り越えて、やっと警察が捜査を始めてくれるのです。
(なお、警察の視点としては、被疑者が全面否認してもなお立件できるかどうかという、極めてハードルの高い捜査を行いますので、「犯人に聞いてもらえれば分かる」という主張は通りにくいです。)
3.では、それで警察が被疑者を逮捕してくれるかというと、まだまだハードルがあります。
警察が被疑者を逮捕するには、「被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」があることが必要です刑訴法199条1項)。
このほか、逮捕の必要性が要件とされており、①逃亡のおそれ、②罪証隠滅のおそれが挙げられます(刑訴規則143条の3)。
一般的に、事件の相手方がこの要件をすべて満たし、全面否認しても立件できるといえるような場合は少なく、結果として逮捕されないことが多くなってしまいます。
また、仮に警察が被疑者を逮捕してくれたとしても、それで民事事件の方が即時に全面解決に向かうかというとそういうわけではなく、別途の交渉や手続きが必要になります。警察はあくまで刑事事件の捜査の一環で対処するだけですから、民事の手伝いをしてくれるわけではないのです。
4.警察が事実上告訴をすぐに受け付けてくれないことにはさまざまな批判がありますが、一方で警察の業務が非常に重く、処理が大変であることも理解ができます。
また、警察に捜査してもらったものの、お金が返ってきたから告訴を取り下げる、などということになれば、警察の捜査は無駄になってしまいます。法的に無駄とはいえないでしょうが、現場の警察官の立場からすれば徒労感はぬぐえないですし、事実上警察がお金の取り立てを手伝ったことにもなりかねませんので、お金を返してもらったとしても、処罰感情が残るかまで検討した方が良いかもしれません。
いろいろな弁護士の考え方があり得ますが、私としては、警察と敵対的になってまで、無理矢理告訴を受理させるようなことは最終手段と考えており、警察が納得できるような資料の収集を心掛けて対応しています。
5.警察に逮捕してもらいたいと考えて心理はよく分かりますが、以上のような事情がありますので、どのような対応が適切なのかは、よくよく考えて対処する必要があります。
当事務所では刑事告訴と民事での請求、いずれも対応が可能ですので、いろいろな解決方法を提案させていただけるかと思います。
以上